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留学生の高額治療と感染症の対策を急げ 日本に来て割安な価格で治療を受けられる「抜け穴」

以下記事転載

留学生の高額治療と感染症の対策を急げ 日本に来て割安な価格で治療を受けられる「抜け穴」 WEDGE Infinity(ウェッジ)

WEDGE REPORT

2018年5月15日

 

 私が勤務する国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)では、外国からの訪問者や滞在者向けに言語・文化のバリアを取り除いた「国際診療部」を2015年4月に新設した。

 全患者のうち、外国人の新規外来患者の割合は、15年には5~6%前後だったが、17年には12%と倍近くになっている。受診している外国人患者の6、7割が長期滞在者で、残りが観光客などの短期滞在者だ。

 そこで見られるようになったのは、がん・肝炎・HIVなど「高額医療」を必要とする外国人の患者が増えたことだ。そうした外国人の中には一定数、留学生ビザ取得者がいる。背景には留学生の増加がある。日本学生支援機構によれば、日本に来る留学生は、11年に16・3万人だったところから10万人あまり増え、17年には26・7万となった。

 解せないのは高額医療を必要とする事例だ。そもそも、重篤な病気を患っているのであれば、まずはそうした病気は、治癒あるいは治療して安定させてから留学しないと勉学に差し障る可能性がある。それにもかかわらず、わざわざ日本に来ている事例については、日本での「治療」が目的なのではないかと疑念が生じるのである。

 留学生ビザを取得するなどして、日本に3カ月以上滞在する外国人は、国民健康保険(国保)に加入する義務がある。前年に所得がない留学生だと、月に5000円程度支払えば、日本国民と同じように原則3割の自己負担で様々な医療を受けることができる。これは、外国人にとっては非常に魅力的な制度である。さらに、高額療養費や特定疾患の制度を使い、自己負担を減額することもできる。

 例えば、C型肝炎は本来なら数百万円の治療費が必要となるが、日本の国保に入れば国保の保険料と、月あたり1万~2万円の治療費で済む。完治には3カ月程度かかるが、自国で認可されていない新しい薬にアクセスしたり、保険がないまま医療ツーリズムで来日して高額な医療費を支払うことを考えれば格段に安上がりなのである。

 このような手法がこれまで以上に知られるようになった背景の一つに、「医療滞在ビザ」の存在がある。医療滞在ビザは、政府の「新成長戦略」のもと、アジアの富裕層等を対象とした健診、治療などのために11年から運用が開始された。医療滞在ビザには、日本の病院からの受け入れ許可と、身元保証機関との契約が必要となる。公的医療保険に入っていない外国人の診療費は、自由診療となるため、医療機関が独自に設定した2~3倍の治療費を支払うケースが多い。

 例えば日本人が100万円(3割の自己負担で30万円)の場合、200万~300万円になる。身元保証機関の企業にも手数料を支払う必要がある。身元保証機関というのは、日本で治療を受けたいという海外在住の外国人に日本の病院を紹介する斡旋機関のようなもので、渡航支援企業とよばれている。

 富裕層であれば、数百万円にもおよぶ治療費と手数料は気にならないかもしれないが、中間層以下であれば、それだけのお金を負担することは不可能だ。外務省によれば、16年の医療滞在ビザの発給は1307件で、その多くは中国人向けとなっている。

日本の医療にアクセスできる
「医療滞在ビザ」と「留学」

 「医療滞在ビザ」回避の手段の一つが「留学」だ。実際、医療滞在ビザでの来日や治療と比べると、費用も手間も負担が少ない。

 治療を目的とした留学生の数を把握することは困難だ。外国人患者の定義が不明であるし、日本の医療機関には、外国人の患者を集計する義務もない。受診時に外国人かどうかを確認して集計まで行っている医療機関は少数だ。また、このような事例は全体の割合から見てもそれほど多いということではなく、現時点では、日本の医療財政に大きな負荷となっているというほどの規模でもないと思われる。

 しかし、日本の国民皆保険制度は、日本国民や長期在住者が生涯にわたって支払い続ける保険料によって支えられているのであり、短期間しか保険料を支払っていない外国人がフリーライダー的に高額医療を利用するのは公平性という観点で問題がある。

 もっと深刻なのは、周囲に感染する病気を持った人が留学生として入国した場合だ。例えば、勉強とアルバイトでの睡眠不足、低栄養や異文化でのストレスなどから結核を発症し、日本語学校で集団感染となる事例も各地でおきている。麻疹(はしか)や風疹が持ち込まれ地域に拡大するリスクも常にある。これらは留学ビザを取得する際に事前に病気の有無を証明する診断書を提出させ、ワクチンの接種確認などを義務付ければある程度防げることだ。結果として感染拡大を防ぎ、対策・治療にかかる費用も減らすことができる。

(出所)厚生労働省 写真を拡大

 こうした初歩的なことすらできていないというのが日本の現状なのである。専門団体の意見や現場からの声を受けて、結核に関しては、厚生労働省・外務省がアジア6カ国に対して、入国前に健康診断を受けるよう動き始めたところだ。

では、諸外国ではどのような対応をとっているのか。例えば、オーストラリアでは留学ビザ希望者に対して、政府が指定した医療機関での健康診断を義務付けている。検査結果は、クラウド上に置かれ、オーストラリアの担当医師もチェックするという体制になっている。そのうえで、留学生には「留学生保険」への加入が義務付けられている。この保険は急な体調不良等の医療はカバーするが、美容の治療や出産、そして出国前から把握されている高額な医療費のかかる慢性疾患(がんやHIV感染症)等については適用されない。慢性の病気を患った人であっても留学は可能であるが、治療薬は母国から持参する仕組みになっている。

 このような話をすると、「だから外国人を受け入れるべきではない」と主張する人が必ず出てくるが、それは本質的な解決策ではない。人口減少が続くなかで、今まで以上に外国人と共生していくことは不可欠だ。問題なのは、オーストラリアの事例を見れば分かるように、事前の健診、留学生専用の医療保険など、手当てできる対策をとっていないことだ。

 16年から東京、神奈川などで、家事代行サービスの受け入れが特区として認められることになった。開始前に、私は受け入れ業者にそれぞれ電話をかけて「健診とワクチン接種の証明をするように」とお願いした。訓練され、就労意欲のある労働者が感染源となって、赤ちゃんや子どもが病気になれば、外国人バッシングにつながるリスクがあると考えたからだ。きちんと事前にチェックしさえすれば、このような問題が起こらずに済む。

簡単に扶養に入れる
協会けんぽ

 もう一つ、外国人の皆保険制度加入に関する問題があることを指摘しておきたい。日本の国民皆保険は、前出の自営業者などが加入する「国保」のほか、主に中小企業に勤める人が加入する「全国健康保険協会(協会けんぽ)」、主に大企業に勤める人が加入する「組合健保」がある。企業が自主運営する組合健保は、扶養者を加入させる場合、扶養者が同居していることや、扶養している証明(一定額の送金履歴)などの提出が求められるなど、厳しいチェックが入る。

 一方で、都道府県が運営主体である国保や協会けんぽは、加入や扶養の認定の加入ハードルが低いというのが、現場での実感だ。というのも、旅行中に病気となった外国人旅行者が、体調不良で受診し、急遽入院したために高額な医療費が請求された際に、「日本で働いている子どもの扶養に入れてもらう」ということになった。驚いたことに、保険証はすぐに発行された。

外国人労働者の扶養加入といったことは、経営者が親切心で行っているということもあるだろう。しかし、健保組合も運営が厳しくなっており、組合を解散して協会けんぽに加入するといった動きもみられるようになってきた昨今、協会けんぽは、こうした実態を認識して扶養加入の審査体制を見直す必要がある。

 医療機関や医療者にできることは何か。保険のない外国人の医療費が未収金になるよりマシではないかという声も聞くし、患者が減るより増える方がいいという切実な事情を抱える人たちもいるだろう。しかし、この問題は放置すれば、財政的なことだけでなく、保険や年金という信頼で守られる制度がダメージを受けること、実際にはごく一部の人たちの行いであるのに、外国人全体に批判の目が向けられかねないリスクをも孕んでいる。

 勉強会に集まる医療者の多くはこのことを危惧しているが、今後、不適切と知りながら収益のために事実とは異なる書類の作成や制度利用に加担するような医療機関の存在が明るみに出れば、現行医療制度そのものの信頼を失いかねないのではないだろうか。各領域でできることはあるので、ぜひご検討いただきたい。

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◆Wedge2018年5月号より