「フラリーマン」は「働き方改革」による長時間労働是正の動きに水を差すために仕掛けられた造語か?

 

昨年9月から、にわかに話題となった「フラリーマン」

 「フラリーマン」という言葉をご存じだろうか。「働き方改革」の動きの中で定時退社や残業削減を促された男性たちが、まっすぐ家に帰らずに居酒屋などで時間を潰す現象を指す言葉として広がっているものだ。「働き方改革による悲哀」「働き方改革が生んだ皮肉」などの言葉と共に広められている。

 

 2017年9月19日のNHK「おはよう日本」で、「なぜ?まっすぐ帰らない 密着“フラリーマン”の夜」として10分弱の特集「けさのクローズアップ」で取り上げられたことをきっかけに、ネットで話題となり、テレビや新聞各紙でも「働き方改革」との関連で「フラリーマン」が取り上げられ続けている。主なものを時系列で並べると、次の通りだ。

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(1)2017年9月19日「男たちがまっすぐ帰らない理由」(NHK「おはよう日本」特集「けさのクローズアップ」)(番組内容紹介記事)

(2)2017年9月19日「まっすぐ帰らない男たち」NHK NEWS WEB「Cameraman’s eye」(上記(1)の映像)

(3)2017年10月12日「【ネットの話題】「働き方改革」でもまっすぐ帰らない「フラリーマン」に妻らから非難ごうごう 改革の趣旨を考えた」(産経ニュース)

(4)2017年10月24日「妻たちが「フラリーマン」の夫を許せない理由」(NHK「おはよう日本」特集「けさのクローズアップ」)(番組内容紹介記事)

(5)2017年10月31日「“フラリーマン”あなたは夫を許せますか?」(NHK NEWS WEB)(WEB特集)

(6)2017年11月8日「特集ワイド 夕暮れの街をふらふら、フラリーマン 「残業なし」でも帰らない 家事は妻ペース、チャンネル権もないし」(毎日新聞)

(7)2017年11月17日「フラリーマンが進化するには?」(日テレNEWS24)(番組内容紹介記事)(ゲストは「複業」を研究・実践している西村創一朗氏)

(8)2017年11月26日「帰れない…フラリーマンの意外な出没先 働き方改革による悲哀」「働き方改革で…街にあふれるフラリーマン」(フジテレビおよび関西テレビ Mr.サンデー)

(9)2017年12月1日「ワンオペ妻VSフラリーマン夫 覚悟の一言が変えた育児」(朝日新聞)

(10)2017年12月4日「フラリーマン、始めました 家に帰れない。夜の街をさまよう男たち」(AERA)

(11)2017年12月26日「“フラリーマン”なぜ家に帰らない? 街で何をしている?」(TBS あさチャン!)

(12)2018年1月3日「働き方改革が生んだ皮肉「足が家に向かない」 増える「フラリーマン」」(Yahoo!ニュース)

(13)2018年1月3日「退社時間早まったのに「足が家に向かない」 増える「フラリーマン」」(withnews)(上記(12)と同じ記事に、「フラリーマン」の用語解説を追加したもの)

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 しかし、その広がりの起点となったNHKの特集に疑問がある。独自取材をもとに作られた特集と考えるには、おかしな点が多すぎる。下記では次の4つの疑問を取り上げる。そのうえで、なぜ「フラリーマン」という言葉が今、流布されているのか、その意味を考える。

●疑問1:「フラリーマン」という言葉はいつから広がったか?

●疑問2:「社会心理学者」とは誰か?

●疑問3:「フラリーマン」は増えているのか?

●疑問4:調査結果は特集テーマにあっていたか?

疑問1:「フラリーマン」という言葉はいつから広がったか?

 昨年9月19日のNHK「けさのクローズアップ」では、冒頭でアナウンサーが

今、退社する時間を早めたり、残業時間を減らしたりする『働き方改革』の取り組みを進めているという職場も多いと思いますが、その一方で、仕事が終わっても『まっすぐ家に帰らない』男性が増えているそうなんです。

と語り、リポートの中では

今、「働き方改革」が進む中で、“まっすぐ家に帰らない男性”が増えているというのです。

こうした人たちは、社会心理学者から「フラリーマン」と呼ばれています。

と語られている。

また、番組の中ではゲーム店の店長が

“フラリーマン”だらけ。増えてます、“フラリーマン”

と語っている。

 これを見ると、「フラリーマン」という言葉は、新しい社会現象をとらえる言葉としてある社会心理学者が造語したものであり、その言葉を手がかりにNHKが現場取材を行って制作した特集のように見える。

 では、いつから「フラリーマン」という言葉は語られているのか。G-Searchの「新聞・雑誌記事横断検索」によって全期間を対象に「フラリーマン」を検索してみたところ、24件がヒットしたが、いずれも昨年9月19日のこのNHKの番組以降のものだった。

 ではこの特集は、新たな学問的知見に、いち早く注目したものなのだろうか? 

疑問2:「社会心理学者」とは誰か?

 そこで次の疑問に進む。

社会心理学者から「フラリーマン」と呼ばれています。

とあるが、この「社会心理学者」とは誰なのだろう。このNHKの特集では名前が語られていない。

 一方、昨年11月8日の毎日新聞の記事(上記(6))は、渋谷昌三氏の名前と、出典となる著書をあげている。

新宿や渋谷、新橋などの繁華街で、同僚や友人と飲むわけでもなく、時間を潰すように道端でお酒を飲んでいたり、映画館やコンビニエンスストア、書店で1人で長時間過ごしていたりする--。そんな行動をする「お父さん」と呼ばれる世代のサラリーマンを、社会心理学者で目白大名誉教授の渋谷昌三さんは「フラリーマン」と名付けた。2004年に出版した著書「『上司が読める』と面白い」の中で使った造語だ。

 2018年1月3日のウィズニュースの記事(上記(13))(執筆者は朝日新聞記者)も、

<フラリーマン> 2004年に渋谷昌三さんが著書「『上司が読める』と面白い」の中で使った造語がきっかけ。「家庭に居場所がなく、夜の街をフラフラする男性」を表すようになった。定年前後の男性だけでなく、働き方改革で多くの企業で退社時間が早まるなか、家にまっすぐ帰らずに時間をつぶしている男性たちのことも指すようになった。

と、同じ名前と著書をあげている。

 筆者は2004年の同書籍の現物は確認していないが、同じタイトルの渋谷昌三氏のPHP文庫(2007年)をKindleで購入して確認してみた。身近な話題を親しみやすい文章でつづった印象の書籍であり、第1章から第7章まで、それぞれ11~12の話題に分かれている。このうち第5章「なぜ男たちは、家に帰りたがらないのか」の「08 すぐに家に帰りたがらない、『フラリーマン』たちの心の理由」に、「フラリーマン」の言葉が確かにある。もとの文庫では、見開き2ページのボリュームだったのではないかと思われる。

 その内容は以下の通りだ。

東京だったら、新宿や神田、新橋などが思い当たりますが、サラリーマンが集うガード下の居酒屋あたりには、会社の同僚と飲むわけでもなく、かといって友人と飲むわけでもないサラリーマンたちが、わけもなくふらふらウロウロと時間を潰すようにお酒を飲んでいるそうです。彼らは、別名「フラリーマン」と呼ばれています。

 「飲んでいるそうです」と伝聞であり、「フラリーマン」についても「呼ばれています」と書かれていて、みずからの造語であるとは記されていない。

 上記の通り毎日新聞とウィズニュースは渋谷昌三氏の「造語」だと書いているのだが、果たして出典の確認はしたのだろうか。出典の確認をせずにそう記したのなら、渋谷昌三氏の造語だというのは誰に聞いた話なのだろうか。

 この出典を確認したあとで改めて、

今、「働き方改革」が進む中で、“まっすぐ家に帰らない男性”が増えているというのです。

こうした人たちは、社会心理学者から「フラリーマン」と呼ばれています。

という昨年9月19日のNHK「けさのクローズアップ」の語りを読み返すと、その語りが不自然なものに見えてくる。

 出典は2004年の著作だった。ということは、安倍首相が2016年から語り始めた「働き方改革」より以前の言葉である。その言葉を使って、

今、「働き方改革」が進む中で、“まっすぐ家に帰らない男性”が増えているというのです。

こうした人たちは、社会心理学者から「フラリーマン」と呼ばれています。

と紹介するのは適切なのか? また番組制作者はこの「フラリーマン」という言葉を、どういう経緯で知ったのか?

 番組を見た人たちは、「こうした人たち」を、単に「まっすぐ家に帰らない男性」を指す言葉というよりも、「『働き方改革』が進む中で、“まっすぐ家に帰らない男性”」と受け取るだろう。

 しかし実際のところは渋谷昌三氏が著作で「フラリーマン」という言葉を使ったのは2004年であり、またその記述は

彼らは、別名「フラリーマン」と呼ばれています。

というものであるに過ぎないのだ。

疑問3:「フラリーマン」は増えているのか?

 昨年9月19日のNHK「けさのクローズアップ」では、

今、「働き方改革」が進む中で、“まっすぐ家に帰らない男性”が増えている

と語られていた。

 しかし同番組の内容を確認しても、「増えている」ことを表すデータは示されていない。街のあちこちにそのような男性がいることが映し出されているが、夕方の街に仕事帰りの男性の姿がある自体は以前から見られることであり、何も不思議なことではない。

 渋谷昌三氏が「フラリーマン」を紹介した2004年は「働き方改革」より前の時期だが、その時期と比べて「増えている」と言えるのかについても、番組は根拠らしきものを示していない。

 「働き方改革」によって、以前は定時退社ができなかったサラリーマンが定時退社できるようになった事例は確かにあるのだろう。しかしそのことをもって、「“まっすぐ家に帰らない男性”が増えている」と短絡することはできない。

 にもかかわらず10月12日の産経ニュース(上記の(3))は、伝聞調ながら

「働き方改革」が叫ばれるなか、仕事が終わっても真っすぐ家に帰らない人たちが増えているという。

と書いている。ここでも、「増えている」根拠は示されていない。

 また今年1月3日のYahoo!ウィズニュースの記事(上記(12)および(13))も、見出しに「増える『フラリーマン』」と記し、本文には産経ニュースと同じように、

フラリーマンとは、仕事が早く終わってもまっすぐ家に帰らない人たちのこと。企業で働き方改革が広がるなか、こんな男性たちが増えているという。

という記述が見られる。しかしここでも「増えている」根拠は示されていない。「増えているという」の根拠が昨年9月19日のNHK「けさのクローズアップ」であるとするなら、同番組で「増えている」根拠を示していないことは上に見た通りだ。

 このように、「増えている」ことの根拠を示す記述はないにもかかわらず、これらの報道によって、「『働き方改革』によってまっすぐ家に帰らない『フラリーマン』が増えている」という印象だけが世の中に広がっていく。果たしてこれでよいのだろうか。

疑問4:調査結果は特集テーマにあっていたか?

 昨年9月19日のNHK「けさのクローズアップ」では、「こんなデータもあるので、ご覧いただきましょう」という語りに続いて、「既婚男性の仕事帰りの寄り道」という調査結果が示されている。

 それによれば、「子どもと同居せず」では「平均28.3%」、「子どもと同居あり」では「平均38.2%」という数値が表で示され、

『既婚男性の仕事帰りの寄り道』についてなんですけれども、子どもと離れて暮らしていたり、子どもがいなかったりする家庭に対して、子どもと同居している男性の方が寄り道をしてしまう傾向があるという結果になったんです。

という解説が加えられている。

 この調査の出所は番組のフリップでは「朝日大学マーケティング研究所」と記されている。ネットで「朝日大学マーケティング研究所」を検索すると、公開リサーチデータがある。

 昨年10月12日の産経ニュース(上記の(3))は、昨年9月19日のNHKの番組にも触れたあとで、次のように朝日大学マーケティング研究所の調査データを紹介している。

朝日大学マーケティング研究所(岐阜県瑞穂市)が、14年に首都圏在住の30~60代の既婚男性約400人を対象に、「既婚男性の独り行動」を調査。

 ・スーパーマーケット

 ・ドラッグストア

 ・ファミリーレストラン

 ・ファストフード

 ・コーヒーチェーン

 これら5カ所への仕事帰りの独り立ち寄り率を調べたら、いずれも「子供と同居している層」が、「子供と同居していない層」を上回ったのだ。

 では、NHKのデータもこの調査結果が出典なのだろうか。「公開リサーチデータ」の「2014.05 既婚男性の独り行動~平日編~」から、上記5か所への「月2回以上の独り立ち寄り率」のデータの「平均」を試しに取ってみると、NHKの番組の「平均」の数値と一致する。おそらくNHKが示したデータも、産経ニュースが参照したデータと出所が同じものなのだろう。

 「平均」を取るという処理をすることには疑問があるが、それは措くとしても、これは2014年5月のデータであり、「働き方改革」より前の調査である。「働き方改革」によって「フラリーマン」が増えたと語る文脈で参照することの意味がわからない。

 また、同調査結果では、最も「独り立ち寄り率」が高いのは、「スーパーマーケット」である。家族のために食材などを買って帰っているのかもしれない。そうだとすると、家に帰りたくないために居酒屋などで時間を潰すという「フラリーマン」のイメージとは違う。調査結果を紹介した際の、「寄り道をしてしまう」という番組の語り口にも疑問が生じる。

 いずれにせよ、この調査結果は、「働き方改革」によって「フラリーマン」が増えていることを示すデータではない。何かデータが示されると、そこで語られている主張に根拠があるような印象を与えるが、このデータを主張の裏付けにすることは、不適切と考える。

「フラリーマン」は「働き方改革による悲哀」「働き方改革が生んだ皮肉」なのか?

 昨年9月19日のNHK「けさのクローズアップ」が密着取材したある男性は、2時間ほど寄り道をしてから帰宅する。彼は語る。

共働きなんです。早く帰りすぎてしまうと、“ごはんを作る時間ないじゃない”って。“じゃあ手伝うよ”と、先に洗濯物を取り込んだり、ごはんの準備をしても“下手だね”と、あまりうまくいかなくて。であれば、妻に任せようと。

早く帰ってきても困るでしょ?

早く帰ってきて手伝おうとすると、全部やり直しじゃん?

それに対し、妻も「そうね」と同調し、

ほどよく8時、9時くらいがいいかな。

と語る。

 この特集から受ける印象は、「『働き方改革』によって早く帰れるようになっても、どうせ家庭には男性の居場所はない」というものだ。

 昨年10月24日にNHKは再度、「おはよう日本」の特集「けさのクローズアップ」で「フラリーマン」を取り上げている。9月19日の番組への反響が大きかったとした上で、今度は子育て中のお母さんたちからの「許せない」という声が、中心的に取り上げられている。

けしからんですね

なにしてんねん。どこ行ってんねんって

自分の時間もなく育児しているので、ちょっとは考えてほしい

 確かに家事・育児に追われる夕方に、夫が家に帰りたくなくて外で時間を潰しているとわかれば、妻はそういう気持ちになるだろう。しかし、このように描かれれば、夫はさらに家に帰りたくない気持ちになるだろう。「仕事で遅くなるほうが、お互い幸せ」と思うだろう。

 他のメディアの取り上げ方もおおむね同じようなものだ。家に帰っても居場所がない夫と、家事・育児に協力しようとしない夫へのいら立ちを感じる妻。それが「働き方改革による悲哀」(上記(8))、「働き方改革が生んだ皮肉」(上記(12))などと語られている。

 そのような夫婦のぎくしゃくとした関係はそれでいいのか、と問い直す考察が含まれている場合もあるが、その場合も「『働き方改革』によってまっすぐ家に帰らない『フラリーマン』が増えている」という認識が前提になっているように思われる。その認識自体を「本当か?」と問い直すことなく、その認識を前提に、事例を集めてきて考察しているように思える。

 しかし、改めて振り返ってみよう。「フラリーマン」という言葉は、昨年9月19日のNHK「けさのクローズアップ」が広めた。確かに反響は大きかった。

 しかし、「フラリーマン」という言葉の由来の不確かさ、「増えている」という表現の根拠のなさ、調査データの利用の不適切さについては上に見た通りだ。そのように問題が多い特集を通じて、「フラリーマン」という言葉が流布されるのは、適切なのか? また、その番組に反響があったからといって、その後の報道で同じ「フラリーマン」という言葉を使い、「働き方改革による悲哀」「働き方改革が生んだ皮肉」などと報じるのは、適切なのか?

 そのような報じ方は、9月19日のNHK「けさのクローズアップ」を起点として、仕掛けられたものとは考えられないだろうか? それに続くメディアは、その仕掛けに無自覚に「乗せられて」いないだろうか?

「フラリーマン」は「働き方改革」をめぐる世論を変えるために仕掛けられた?

 昨年9月19日のNHK「けさのクローズアップ」が、誰かによって仕掛けられたものかどうかは、分からない。しかし、独自取材による特集だと判断するには、上記の通り、あまりに疑問が多い。どこかから持ち掛けられた話だと見る方が、筋が通る。

 では誰が、何のために。

 「誰が」は、わからない。「何のために」は、推測できる。あくまで筆者の推測だが、「働き方改革」をめぐる世論を変えるために、だ。

 「働き方改革」は、一般には「長時間労働の是正」の文脈で理解されている。しかし政府が目指す「働き方改革」の中身は、そうではない。

 今月からの通常国会に法案が上程される予定の「働き方改革」一括法案には、労働基準法の改正案が含まれるが、そこには次の3つの内容が盛り込まれている。

●時間外労働の上限規制

●高度プロフェッショナル制度の創設

●裁量労働制の適用拡大

 このうち「時間外労働の上限規制」は一般的な「働き方改革」のイメージ(=長時間労働の是正)に合致するものだが、「高度プロフェッショナル制度の創設」と「裁量労働制の適用拡大」は、そうではない。これらは実労働時間に応じた残業代支払いを不要とする働かせ方であり、長時間労働を助長する恐れが強い働き方だ。

 下記の記事にまとめたように、「高度プロフェッショナル制度」などは、24時間連続勤務を週に5日間休憩なしで続けさせることも制度的には可能となる働き方だ。「健康を確保しつつ」と言われているが、健康確保措置は極めて不十分である。

「働き方改革」一括法案、連日24時間勤務の命令も可能に。制度の欠陥では、との問いに厚労省担当者は沈黙(上西充子) - Y!ニュース

 そのため、せっかく「時間外労働の上限規制」を導入しようとしているのに、なぜ同時に「抜け穴」を拡大させるようなことをするのか、なぜ「残業代ゼロ法案」をまた復活させて成立させようとしているのか、という批判が強い。

 にもかかわらず安倍政権は、上記の3つを「セット」で法改正に盛り込む意向を変えていない。経済界は「高度プロフェッショナル制度の創設」と「裁量労働制の適用拡大」を強く求めており、それらを欠いたまま「時間外労働の上限規制」だけを導入することは、安倍政権の目指す「働き方改革」ではない。

 とはいえ、「働き方改革」を「長時間労働の是正」の文脈で理解している多くの人たちにとっては、長時間労働の助長につながる「高度プロフェッショナル制度の創設」と「裁量労働制の適用拡大」は受け入れがたい。

 その受け入れがたさを変えていく、そのための1つの広告戦略が「フラリーマン」なのではないだろうか。

 会社を早い時間に出ても、まっすぐ家には帰りたくない、家に帰っても居場所がない、家に帰っても妻にあれこれ言われる、それなら夜まで仕事をしてから帰った方が、お互い幸せだ――そういう雰囲気が醸成されれば、「時間外労働の上限規制」に抜け穴があっても、そしてその抜け穴が拡大することになっても、「確かに、早く帰りたくない人もいるよね」と理解が広がり、法案への反対の世論が弱まるのではないか――そんなことが、ねらわれていないだろうか。

 実は2017年3月28日に政府がとりまとめた「働き方改革実行計画」で繰り返し強調されているのは、長時間労働の是正や過労死防止ではなく、「多様で柔軟な働き方」である。この「多様で柔軟な働き方」という言葉には、一方には残業を抑制して働く人や定時で帰る人がいてもよいが、他方で「意欲と能力ある労働者」が「自律的に働く」こともあってもよい、という含意が隠されている。後者の働き方に相当するのが、「高度プロフェッショナル制度」や「裁量労働制」のもとで働く労働者だ。

「働き方改革実行計画」より抜粋
「働き方改革実行計画」より抜粋

 さらに「働き方改革実行計画」には、副業・兼業の促進も含まれており、これについては厚生労働省の「柔軟な働き方に関する検討会」が、様々な異論を残しながら(注)、昨年12月25日に報告をとりまとめ、「副業・兼業の促進に関するガイドライン(案)」もとりまとめている。

 この副業・兼業が、昨年11月17日の日テレNEWS24(放送日は11月16日か?)で「フラリーマン」の「進化」した姿として提案されていたことを思い出そう(上記(7))。「複業」を研究・実践しているという西村創一朗氏が登場し、「フラリーマン」を時間の使い方が分からない人たちと位置づけた上で、時間の有効な使い方として、「学びなおし」や「複業」への挑戦が提案されているのだ。

 「学びなおし」は、西村氏が番組の中で「人生100年時代」と語っているように、安倍政権の「人づくり革命」につながる。「複業」は、副業・兼業の促進につながる。

 このように、安倍政権がめざす「働き方改革」と、一般の人が「長時間労働の是正」の文脈でイメージする「働き方改革」とのギャップを埋め、安倍政権がめざす「働き方改革」を支持する方向へ世論を誘導するために、「フラリーマン」という言葉が意図的に流布されたのではないか、と思えてならないのだ。

 「フラリーマン」という言葉を、「今、話題の言葉」として積極的に取り上げ続けているメディアの方々は、このような見解をどう思われるだろうか。実際に話題になっているのだから、それを取り上げて何が悪い、という話であるかもしれない。しかし、話題の出どころに立ち返って考えてみれば、「私たちは、乗せられているのではないか?」と考え直してみることはできないだろうか?

 

 またメディア関係者ではない私たちも、「フラリーマン」という言葉によって、「どうせ早く帰っても、家では歓迎されない」「早く帰ってこられてもね・・」という方向へ、意識が誘導されていないか、振り返ってみることが必要ではないだろうか。

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(注)「副業・兼業の促進」に向けた動きについては、下記の記事を参照されたい。

本来ならば法整備をしてから普及を図るのが筋。同省の担当者も「順序が逆だが、法制度の見直しを先にすると1年では済まない」と政府主導の矛盾を吐露する。

と記事に記されているように、「副業・兼業の促進に関するガイドライン(案)」の策定に向けたプロセスには、疑問が多い。