「働き方改革」一括法案、連日24時間勤務の命令も可能に。制度の欠陥では、との問いに厚労省担当者は沈黙

成嶋(2015)をもとに筆者作成

「わたしの仕事8時間プロジェクト」が厚生労働省担当者に対し、「働き方改革」一括法案の問題点について質疑

 「8時間働いたら帰る、暮らせるワークルールをつくろう」というネット署名活動(※1)に取り組んでいる「わたしの仕事8時間プロジェクト」(※2)が、これまでに集まった署名15,044筆と1,500件あまりのコメント一覧を2017年12月6日、厚生労働省に提出した。

 署名提出の際に、「わたしの仕事8時間プロジェクト」のメンバー6名が厚生労働省労働条件政策課の担当者に対し、「働き方改革」一括法案(要綱)(※3)について質疑を行っている。その概要の一部が、下記の署名提出報告に掲載された。

「わたしの仕事8時間プロジェクト」署名提出のご報告(2017年12月16日)

 年明けの通常国会に提出が見込まれている「働き方改革」一括法案(現在は「要綱」のみ公開)には、「残業代ゼロ法案」と言われてきた「高度プロフェショナル制度の創設」と「裁量労働制の拡大」が、「時間外労働の上限規制」の「抜け穴」として組み込まれており、既に下記の通り各団体から問題点が詳しく指摘されている(※4)。

全労連:【意見】「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」についての意見(2017年9月26日)

日本労働弁護団:「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(働き方改革推進法案要綱)に対する意見書(2017年11月9日)

 しかし安倍政権が国会の開催を避け続けたまま解散に踏み切り、選挙後もわずかな日程しか国会を開かなかったことから、この「働き方改革」一括法案の問題点が国会で詳しく審議されるには至っていない。

 その中で「わたしの仕事8時間プロジェクト」メンバーが厚生労働省担当者に「働き方改革」一括法案の問題点についてただした12月6日のやりとりの内容は、国会質疑にかわるものとして注目される。

 以下では、やりとりの内容を「わたしの仕事8時間プロジェクト」(以下、「プロジェクト」と表記)の許可を得て転載し、その意味するところに筆者なりの解説を加える。囲みは質疑概要の転載であり、囲み以外の本文は筆者の解説である。

「わたしの仕事8時間プロジェクト」厚生労働省担当者との質疑概要(一部)

日時:2017年12月6日(水)11:00~12:10

当方(○):「わたしの仕事8時間プロジェクト」メンバー6名

先方(●):厚生労働省労働条件政策課 課長補佐・金子正氏、法規係員・榎孝謙氏

 端的に結論を述べれば、プロジェクトメンバーによる問題点の的確な指摘に、厚生労働省担当者はまったく反論ができていない。「高度プロフェッショナル制度の創設」や「裁量労働制の拡大」は、過重労働・長時間労働を促進する恐れが強いと言わざるを得ない。

「高度プロフェッショナル制度」の対象は限られた高額所得者か?

 「高度プロフェッショナル制度」は、労働基準法の改正によって新しく設けようとされている働き方であり、労働基準法が定めている時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の規定を適用除外とするものである(下の表を参照)。

成嶋(2015)をもとに筆者作成
成嶋(2015)をもとに筆者作成

 つまり、三六協定を結ばずに時間外・休日労働を指示することができ、その時間外・休日労働は三六協定の制約を受けないため上限がない。また、その時間外・休日労働について割増賃金を支払う必要もない。さらに、毎日の労働時間に応じた休憩を設ける必要もない。

 働かせる側にとっては随分と使い勝手がよさそうな働かせ方だが、働く側にとっては過重労働・長時間労働に対する歯止めが極めて弱い働き方だ。

 この「高度プロフェッショナル制度」について、「年収1075万円以上の労働者だけが対象であり、一般の労働者には関係のない話だ(だから気にするな)」といった報じ方がされることがある。その点について、プロジェクトメンバーの問いかけ(〇)と厚生労働省担当者の回答(●)は、下記の通りだ。

○ 法案の「高度プロフェッショナル制度」の年収要件は1075万円だと報道されているが、そうなのか。

● 法律には平均給与の3倍の額を相当程度上回る水準と書く。パートを含めた平均給与は現在300万円強であり3倍であれば900万円台になるが、それを相当程度上回るとして1,075万円と省令で示す。それだけの高収入がある人であれば、使用者に対して交渉力が高い。そういう人に限るとしている。

○ 前の厚生労働大臣は、経済団体との朝食会で、「高度プロ制度は小さく生んで大きく育てる」といったそうだが。要件はいずれ下げられるということではないのか。

● かつて、年収400万円を基準とした制度が提案されたことがあった。使用者側からはそういう要望があり、それを立法化しようとした経緯がある。しかし、前大臣の発言は、今度の制度は小さく生んで大きく育てるというものではない、というものだった。一部を切り取られて使われて誤解を広げてしまった。要件を下げるつもりはない。

○ リークされた大臣発言をみると、たしかに「我々としては小さく産んで大きく育てる、という発想を変える」と言っているようだが、その文脈は要件を下げないというものではなかったのではないか。「少ないところでスタートし、とりあえず入っていく。経団連が1075万円の年収要件を下げると言うので批判が大量にきている。そこは、ぐっと我慢してほしい。とりあえず通す」と言っている。いずれは年収要件を下げて、規制の適用を外してもよい労働者を増やすから、今は我慢してとの趣旨にしか聞こえないが?

● ……(答えず)

 ここで言及されている「年収400万円を基準とした制度」は、経団連(日本経済団体連合会)が2005年6月21日に公表した「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」のp.13に明記されている。

 また、経済団体との朝食会における塩崎恭久・前厚生労働大臣の発言は、2015年4月20日のものであり、下記の記事に音声データと文字起こしが収録されている。

塩崎厚生労働大臣、「残業代ゼロ」法案は「ぐっと我慢して頂いてですね、まあとりあえず通す」と発言(佐々木亮) - Y!ニュース(2015年4月28日)

 これを見ると確かに、「今は我慢して」という趣旨の発言としか思えない。仮に今の法案要綱の規定通りの条文で制度が創設されても、後の法改正における年収要件の引き下げが、あらかじめ織り込まれていると考えるべきだろう。

「高度プロフェッショナル制度」の対象者に裁量はあるのか?

 労働時間規制をすっかりはずしてしまう「高度プロフェッショナル制度」では長時間労働を防げないという指摘に対し、「年収が高い労働者が対象者であり、交渉力が高い(ので大丈夫だ)」と語られることがある。その点についてのやり取りは次の通りだ。

○ 高度プロについて、「年収が高ければ、使用者に対して交渉力が高い」というが、なぜそう言えるのか。管理監督者でもないはずで、それなのに裁量が高いなどといえる根拠はなにか。

● 管理監督者とはまったく別の枠組みで考えている。年収が高い高度な専門職で、裁量があって自律的に働くことができ、交渉力が高く、自分の意志で他の会社に転職ができるような人たちを想定している。

○ 専門性が高いからといって、人事権や業務量、納期を決められるような管理権限まで与えられるわけではない。それで仕事の裁量が高いといえるのか。また、専門業務名を例示したあとに「等」とつけ、使用者の言い分で対象職務を拡げられるようになっている。労働基準監督官が「この業務は専門職に該当しないから違法」などと指摘し、是正させることができるのか。実際に、専門業務型裁量労働制の濫用の事案では、労働行政は是正指導ができていない。裁判に訴えて、ようやく違法な適用だと認めさせた事案が数例あるだけではないか。

● それは指摘のとおり。

○ 裁量労働制とは違い、高度プロの法案要綱には、「労働時間の指示をしてはいけない」という禁止規定がない。これはどういうことか?

● ……(答えず)

 「高度プロフェッショナル制度」の対象者には業務量を調整する権限はなく、裁量労働制の場合にはある「労働時間の指示を禁止する規定」も設けられていない。年収が高いエンジニアや医師でも過重労働の末の過労死や過労自死は起きている。年収が高いことは、自律的な働き方ができることを保証しない。

「高度プロフェッショナル制度」は24時間連続勤務×5日連勤が制度的に可能

 「高度プロフェッショナル制度」は自律的な働き方を保証しない一方で、「働かせ過ぎ」に対する歯止めが極めて弱い。政府答弁ではよく、「健康を確保しつつ」と語られるのだが、その健康確保措置は極めてお粗末なものだ。

○ 例えば、始業を月曜の朝命じて、連日24時間労働を土曜までさせる業務命令をだしても、違法ではない。労基法第4章のすべてから適用除外されているから、休憩・休息も与えず、割増し賃金もはらわなくても違法ではない。これは制度の欠陥ではないのか?

● ……(答えず)

○ そのようなことを許しておいて、健康確保措置をとったなどといえるのか。年間104日の休日確保、有休付与5日、あとは健康診断をするだけでも制度の導入要件をクリアする。24時間労働を連続しておこなわせて、年間6,000時間を超える労働をしても、違法とならない。これを労働基準法で認めてしまっていいのか?

● 机上ではそういう理屈になるが、そういう働き方は現実ではありえない。

○ もちろん、年間6,000時間労働は不可能だ。問題は、それを強制しても違法でないということだ。死ぬまで働かせても違法ではないということになる。「そんな業務命令はありえない」というが、実際に過労死は起きている。そういう働かせ方をする使用者は、実際に存在しているのではないか?

● ……(答えず)

 法案要綱に定められている健康確保措置は、次の2つである(表現は、日本労働弁護団の整理による)。

(1) 年間104日以上、かつ、4週間4日以上の休日を就業規則等で定めること

(2) 対象労働者に対し、次の4つの措置のうちいずれかの措置を講ずること

a) 一定時間以上の勤務間インターバル制度と深夜労働の回数制限制度を導入すること(法律に数値は定めず)

b) 健康管理時間を1ヵ月又は3カ月の期間で一定時間内とすること(法律に数値は定めず)

c) 1年に1回以上継続した2週間の休日を与えること

d) 週40時間を超える健康管理時間が月80時間を超えた場合等に健康診断を実施すること

 (1)の「年104日以上」は「週休2日」に相当するが、毎週2日を休日とする必要は必ずしもない。「4週間4日以上」の条件さえ満たせばよいので、忙しい時期には月~土の週6日働かせることも可能だ。そして一日の労働時間に上限はなく、休憩時間を与える義務もないため、「始業を月曜の朝命じて、連日24時間労働を土曜までさせる業務命令をだしても、違法ではない」ことになってしまう。(2)の要件の方は、d)の健康診断の実施を選んでおけば、働かせ方の制約は一番小さい。

 もちろん、そんな働かせ方をすれば、人は死んでしまう。けれども実際に過労死や過労自死に追い込まれた方の勤務記録を見ると、無茶な働かせ方が実際に行われている。

 電通の新入社員で過労自死に追い込まれた高橋まつりさんの母の幸美さんは東大のシンポジウムで

娘は1週間に10時間しか寝られないような長時間労働の連続で、うつ病になり命を絶ちました

 と語っている(※5)。

 「高度プロフェッショナル制度」が労働時間規制をはずした働き方であることへの批判に対して行われる、「健康を確保しつつ」というお決まりの答弁の内実は、このように実にお粗末なものだ。

「高度プロフェッショナル制度」には本人同意が条件だが・・・

 プロジェクトメンバーの追及は続く。

○ つまり、「専門職」という縛りは効果がないということではないか。また、本人同意も要件として強調されているが、本人が同意したからといって、労働基準法の規制から免れるという発想は本来ありえない。労働基準法とは、労使双方が適用除外を望んでも、それを許さず、強行的に適用される法律。そうではないのか。

● ……(答えず)

○ 高度プロ制の導入にあたっては労使委員会での決議が必要と法案要綱に書かれている。本人同意も決議事項。ということは個人名の特定も含め、監督署への届出が義務か。

● 義務である。

○ 新しく高度プロの適用対象が個人として出てくるたびに届けるのか?

● そうではない。労使委員会の決議の有効期間をもたせる。原案では3年と考えている。

○ すると一度、監督署に届けたら、3年間は監督署のチェックなしということか。

● 決議の有効期間中は届出の必要はない。臨検などの際に、決議内容と運用の実態をチェックすることになる。

○ そのような事後チェックでは、過労死防止にはならない。高度プロ創設、裁量労働制の拡大は、どう考えてもすべきではない。廃案を求める。

 要件に本人同意は盛り込まれているが、いったん「高度プロフェッショナル制度」が設けられれば、使用者は一定の範囲の労働者をすべて適用対象としようとするだろう。それに同意しないことは労使の力関係から難しいだろう。同意しないことによって評価が下がる恐れもある。

 これらのやりとりからわかるように、「高度プロフェッショナル制度」は、自律的な働き方を保証するものではない。今年3月の「働き方改革実行計画」では下記の通り、「高度プロフェッショナル制度」は裁量労働制の拡大と共に「創造性の高い仕事で自律的に働く個人が、意欲と能力を最大限に発揮し、自己実現をすることを支援する労働法制」と表現されているが、このような過剰な美辞麗句でくるまないと国会に提出できないような内実であると見るべきだろう。

「働き方改革実行計画」(2017年3月28日)p.15
「働き方改革実行計画」(2017年3月28日)p.15

「裁量労働制の拡大」は、年収要件なし。対象範囲は、曖昧

 次に、「裁量労働制の拡大」である。「働き方改革」一括法案(要綱)では、「事業運営事項の実施把握・評価業務」と「法人提案型営業」が新たに裁量労働制の適用対象に加わることとなっている(それぞれの呼び方は日本労働弁護団の意見書による)。

 しかし、いずれも「高度プロフェッショナル」とは異なり年収要件はない。どういう業務が対象であるかの規定は抽象的で、対象範囲のグレーゾーンが広く、幅広いホワイトカラーの業務が対象になる可能性がある。上の引用に

〇実際に、専門業務型裁量労働制の濫用の事案では、労働行政は是正指導ができていない。裁判に訴えて、ようやく違法な適用だと認めさせた事案が数例あるだけではないか。

● それは指摘のとおり。

とあるように、「これは裁量労働制の対象外の業務だから、違法だ」と労働基準監督署が是正指導を行うということは、現実には困難だ。

 その中で、幅広いホワイトカラー労働者が裁量労働制の対象とされる事態が、法改正を待たずとも起きている。損保ジャパンでは、本社・支社の一般営業職も含めて、約1万9千人の職員のうち約3人に1人に脱法的に裁量労働制が導入されていたものが、国会で追及されたことから撤回に至ったという。

しんぶん赤旗:損保ジャパン日本興亜 裁量労働の拡大撤回 労働者告発 小池書記局長が追及(2017年8月1日)

「みなし労働時間制」による裁量労働制は、長時間労働を助長する危険

 裁量労働制は一定の時間に働いたものと「みなす」制度であるため、その「みなし労働時間」が法定労働時間内(8時間以内)であれば、時間外労働に対する割増賃金は支払われない(深夜割増と休日割増の支払は必要)。そのため、「定額働かせ放題」となる恐れがある。

○ 裁量労働が長時間労働となる傾向があることは、厚労省調査で明らかだ。企画業務型、専門業務型、いずれの裁量労働制でも、使用者は始業・終業などの時間指定をしてはならないとなっているが、実際には、それが行われ、かつ長時間働いても残業していなかったことにされている。結局、裁量などないのに、みなし労働とされ、残業代ゼロにされている。

○ 上司が裁量労働で働いている場合、裁量のないチームの部下も皆、同様の働き方を求められ、裁量的な働き方をさせられている。残業は申請しないように圧力をかけられたり、申請してもカットされるといったことは珍しくない。さらに悪質なのは、「うちは裁量制だから」という経営者の一声で、労使協定もなしに従業員の労働時間管理を放棄し、残業代を不払いとしている会社が数多く野放しになっていることだ。裁量労働制の対象業務拡大は、それ自体問題だが、より甚大な政策効果として、今もかなり広がっている裁量労働制を騙った違法・脱法的な働かせ方を促進させてしまうことが懸念される。

 ここで言及されている厚労省調査とは、厚生労働省の要請により労働政策研究・研修機構が行った、下記の調査である。

労働政策研究・研修機構:「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果」(2014年6月30日)

 「通常の労働時間制」のもとで働いている労働者に比べ、「企画業務型裁量労働制」や「専門業務型裁量労働制」で働いている労働者の方が、実労働時間が長い傾向にあることが、下記の通り調査結果として表れている。

労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果」
労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果」

必要なのは、すべての労働者を対象とした労働時間管理の義務付け

 今の労働基準法には、実は労働時間の客観的な把握と管理を義務付ける規定がない。そのため、不払い残業の追及を逃れるために、わざとタイムカードを廃止するといった脱法的な行為も起きている。

 「働き方改革」一括法案では、時間外労働の上限規制が設けられる予定だが、実労働時間を客観的に把握する仕組みを欠いたままだと、そのような上限規制は実効性をもたない恐れがある。

 そのため労働基準監督官を対象としたアンケートでは、「時間外・休日労働にかかる上限規制の導入」よりも「実労働時間の把握義務の法定化」の方が、労働時間規制で必要な対策であるという回答の割合が高くなっている(※6)。

 この点に関するプロジェクトメンバーと厚生労働省関係者のやり取りは次の通りだ。

○ 長時間労働と不払い労働をなくすためには、労働時間管理を使用者に義務付けることが必要だ。労災申請でも、裁判で労災における損害賠償や不払い賃金の支払いを求めるときでも、現在は労働者側に労働時間の実態について挙証責任が課せられている。過去の記録をまとめ、証拠として認めさせる作業は困難であり、多くの人が諦めてしまう。労働時間を把握し、記録をすることを、使用者に罰則付きで義務付けるべきではないか。今回の労働時間法制の審議をみていると、「建議」をまとめた段階では「労働時間管理の義務化」の論点がでていた。ところが、法案要綱になると、健康確保措置として省令にとどめられてしまっている。これでは使用者は守らない。使用者の義務として、法律に罰則付きの規定として、書き込むことが必要だ。

● おっしゃるとおりだ。今回の法改正では、管理監督者やみなし労働時間の適用者も含めて、労働時間管理を義務化することとしている。労働基準法では、管理監督者に網をかけることにしにくいので、健康確保措置として労働安全衛生法に位置づけた。ただし、省令どまりとなった。これが限界だった。

○ 労働安全衛生法に位置づけて、管理監督者も裁量労働制の適用対象者も、労働時間管理の対象として位置づけたのは、省としての知恵の出しどころだったと思う。しかし、労働安全衛生法でも罰則はつけられる? のであれば、法律に書いて罰則をつけるべきではないか。

● 労安法でも罰則はつけられるが……。

 厚生労働省も労働時間管理の義務化の必要性を認めているにもかかわらず、それが「働き方改革」一括法案に適切に盛り込まれていない。その現状のままでは、「時間外労働の上限規制」を実効性あるものとできないのではないか。

 2016年11月15日に当時の民進、共産、自由、社民からなる野党4党は「長時間労働規制法案」(労働基準法の一部を改正する法律案)を共同で衆議院に提出しているが、その法案には「労働時間管理簿の義務付け」を含んでいた。

長時間労働規制法案を罰則強化し再提出 - 民進党(2016年11月15日)

 現在の厚生労働省の労働時間把握に関するガイドラインは、管理監督者と「みなし労働時間制」の適用対象者を除外している(※7)。また「ガイドライン」であり法的な強制力が弱い。管理監督者や「みなし労働時間制」の適用対象者も含めた、すべての労働者の労働時間管理簿を、法で義務付けることが必要だろう。

おわりに

 以上、12月6日の「わたしの仕事8時間プロジェクト」メンバーと厚生労働省の担当者のやりとりを見てきた。厚生労働省担当者が沈黙する場面が多いが、最後のやり取りでは誠実な回答も得られており、まったく門前払い的な対応が行われていた、というわけではない。

 まったく対応する気がなかったのではなく、プロジェクトメンバーによる問題点の指摘に、厚生労働省側が反論できなかったことが沈黙の理由と思われる。つまり、それだけ「働き方改革」一括法案には問題があるということだ。

 このやりとりを紹介して、プロジェクトは次のように問いかけている。

 署名提出と要請を通じて痛感したのは、内閣・首相官邸の強い圧力のもと、法案づくりを担当する官僚は従わざるをえない構造がある、ということです。

 でも、そもそも政府や厚生労働省は、国民や労働者を守るために存在しているのではないのでしょうか?

 安倍政権の「働き方改革」は誰のための改革なのか。「働き方改革」という言葉にまどわされず、内実をしっかり見極めたい。

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(※1)「わたしの仕事8時間プロジェクト」による署名キャンペーン「8時間働いたら帰る、暮らせるワークルールをつくろう」の要請内容は下記の通り。

「わたしの仕事8時間プロジェクト」によるキャンペーン「8時間働いたら帰る、暮らせるワークルールをつくろう」
「わたしの仕事8時間プロジェクト」によるキャンペーン「8時間働いたら帰る、暮らせるワークルールをつくろう」

(※2)「わたしの仕事8時間プロジェクト」は「雇用共同アクション」の取り組みである。「雇用共同アクション」は、以下の労働組合と市民団体で構成されている。

日本マスコミ文化情報労組会議/全国港湾労働組合連合会/航空労組連絡会/純中立労働組合懇談会/全国労働組合総連合/全国労働組合連絡協議会/中小労組政策ネットワーク/コミュニティ・ユニオン首都圏ネットワーク/東京争議団共闘会議/けんり総行動実行委員会/反貧困ネットワーク。

(※3)「働き方改革」一括法案は、労働基準法の改正案(時間外労働の上限規制、高度プロフェッショナル制度の創設、裁量労働制の拡大)や「同一労働同一賃金」に関わる法改正(労働契約法、パート労働法、派遣法の改正)など8つの法改正を一括して行うもの。2017年9月8日に厚生労働大臣より労働政策審議会に法案要綱が諮問され、同年9月15日に労働政策審議会から「おおむね妥当」とする答申が行われている(ただし労働側委員からの反対意見が付されている)。秋の臨時国会に法案が提出されることが見込まれていたが、衆議院の解散・総選挙により、法案の閣議決定と国会提出は見送られている。そのため現在、私たちが確認できるのは、法案要綱(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」)のみである。

(※4)なお、連合の談話は下記の通り。

連合:同一労働同一賃金の法整備及び雇用対策法改正に関する法案要綱に対する談話(2017年9月14日)

連合:労働基準法改正および労働安全衛生法改正等に関する法案要綱に対する談話(2017年9月15日)

(※5)渡辺一樹:「娘の命の叫びをきいてください」電通事件・高橋まつりさんの母が訴えた「過労死対策」(BuzzFeed News 2017年2月10日)

(※6)残業上限、半減させた企業も 働き方「徹底的に変えた」:朝日新聞デジタル (2017年12月4日)

(※7)厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日策定)