いつもイライラ・ギスギス……。上司や経営者に進言しても何も変わらない。職場の「負の構造」が社員の攻撃的反応を引き起こす。

生産性や品質低下を招く会社の“タコツボ化”

不公平な人事や違法な長時間労働、さらにパワハラなどによって会社組織が崩壊するリスクは少なくありません。ひと昔前であれば、直属長の頭越しに役員に直訴したわけですが、今の若手社員は、いきなりインターネットに不満や不正の実態を書き込みます。そうなると、会社を揺るがす事態になります。

お互いに関わり合えない、協力し合えない、上司と部下の意思疎通がとれないという「不機嫌な職場」が増えていることが大きな要因として挙げられます。そんなギスギスした環境では、楽しく働くことはできません。こうした職場では、社員は常にストレスを感じています。それは、個人にとっても会社にとっても大きなリスクです。

おそらく、責任感の強い人ほど、誰にも相談できず悩みを抱え込み、精神的、肉体的に追い込まれてしまうでしょう。同時に社員間の風通しの悪さが、仕事の調整力や柔軟な対応力を削ぎ、生産性や品質の低下を招いてしまいかねません。つまり、会社組織が“タコツボ化”しているのです。

そこには次のような心理的メカニズムが働いています。まず、閉じた働き方とノルマへの過度のプレッシャーがあります。また、つながりをつくるイベントや機会が減っているという状況も存在します。社員はやるべきことを毎日ひたすらこなすだけで、声をかけてもらえず、相談もできません。結果として、自分の殻に閉じこもり、防御的かつ攻撃的な反応につながっていくのです。

「沈黙の謀反」を起こす意識の高い若手社員

2年ほど前からストレスチェックが義務化され、また長時間残業問題も含めた働き方改革が叫ばれています。個々が目の前の仕事に閉じこもり、誰からも助けてもらえず、追い込まれていく状況はもう続けてはならないのです。

ところが、そこから抜け出せない企業が相変わらず多い。目の前の業績が下がる、人は増やせない、担当も代えられない。そういって、何も変えようとしない、正そうとしない。

この状況に耐え切れなくなった人、それを見ておかしいと思っている人が声を上げる。でも目の前の上司や経営者に進言しても、何も変わらないと思う。だから、外に向かって発信する、いたたまれない気持ちをつぶやく。これがきっかけで、違法残業や不適切な管理、不正が発覚していく。

声を上げずに見切りをつける社員も増えています。今までのやり方を変えられない、変えようとしない上司たち、経営者たちを見て、意識の高い若手社員は、「この会社に未来はない」と「沈黙の謀反」を起こして離れていきます。

突きつけられているのは、企業は何のために存在するのかということです。社員を幸せにできない会社が、存続していくことができるのでしょうか。働く人たちが心を押し殺して、耐え続けている会社からイノベーションが生まれるのでしょうか。改めて社員が主体的に動き出したくなる、そんな原動力を見出さなければなりません。

アブラハム・マズローの「欲求段階説」によれば、人は自分の安全が確保され、居場所が見つかり、そこで自分が認められるようになると、欠乏欲求から脱し、自己実現、すなわち成長欲求に向かうことができるといいます。

でも、その先に、もう1つ人の原動力となる欲求が存在します。それが自己超越欲求です。自分だけでは幸せになれない、周囲の人が、コミュニティ全体が幸せにならなければ自分も幸せにならない。働き方も雇用形態も価値観も異なる人たちがともに働く時代の中で、新たな原動力が求められているのです。

人がよりよく生きるための組織に変える

グループウエア開発のサイボウズも、IT企業のご多分にもれず、社員の定着率の低さに悩んでいました。そこで大事なことに気づいたといいます。働くモチベーションは一人ひとり違う。だから100人、100通りの働き方ができる会社にしようと、個々のやる気や事情に合った働き方を選択できるようにしたのです。

でもそれだけでは、バラバラになりチームワークが発揮できない。そこで2011年、人事部の中に「感動課」を設けたそうです。社員を感動させるイベントを仕掛けたり、社員同士の交流の機会をつくったりして、チーム意識を高めることを目標にしました。こうしたつながりを強化し、ともに働く喜びを実感する機会や場をつくっていきました。その結果、00年代半ばには28%あった離職率は、13年には4%に下がったといいます。

では、社員同士が信頼し合えない、協力できない重苦しい職場を改革するにはどうしたらいいのか……。必要なのは、従来は当たり前とされていた「組織のための人材づくり」ではなく、「人のための組織づくり」に発想を180度転換するということです。組織のために人を働かせるのではなく、人がよりよく生きるための組織に変える。社会課題と向き合い、多様な知恵と思いを持ち寄り、自分も含めて周囲の人たち、社会全体がよりよく生きるために何ができるかを真剣に考え、行動できる集団に変えていく。

その意味では、やはり理念とビジョンは大切になってきます。「何を目的とし、何をする会社なのか」が明確でないと、社員の思いも見えてこず、未来への活力は生まれません。現在の職場の行き詰まりは、変革へのターニングポイント。そこを乗り切れないと会社は沈んでいきます。ぜひ、今を問い直し、未来を切り拓いてください。

高橋克徳●東京理科大学大学院イノベーション研究科教授
1966年生まれ。一橋大学大学院、慶應義塾大学大学院博士課程単位取得。野村総合研究所など経て、2007年、ジェイフィールの設立に参画し、現在はCo-CEO。人材育成・組織改革手法の開発やコンサルティングに取り組む。著書に『職場は感情で変わる』など。