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残業代ゼロ 教員の長時間労働を生む法制度・・ブラックな労働の背景に「給特法」残業時間・残業代が生じないから、長時間労働

以下記事転載

news.yahoo.co.jp

残業代ゼロ 教員の長時間労働を生む法制度

 
 

公立校教員における一週間あたりの総労働時間数の推移(筆者が作図)

 

■“残業代ゼロ円”で過労死ライン超え

 学校という職場は、「ブラック」である。文部科学省が2016年度に公立校の教員を対象に実施した「教員勤務実態調査」では、「過労死ライン」(月80時間以上の時間外労働)を超える教員が、小学校で3割、中学校で6割ということが明らかになっている。

 だが私がここで「ブラック」だというのは、単に時間外労働の多さだけではない。教育関係者以外にはほとんど知られていないこととして、じつは公立校教員にはいわゆる「残業代」が支払われていないのだ。

 「残業代ゼロ円」で、多くの教員が過労死ラインを超えて仕事をしているという異常事態。なぜこんなことになっているのか。本記事では、その背景に迫りながら、教員の働き方改革のあり方を探ってみたい。

■好きで夜遅くまで残っている!?

公立校教員における一週間あたりの総労働時間数の推移(筆者が作図)
公立校教員における一週間あたりの総労働時間数の推移(筆者が作図)

 冒頭で紹介した文科省の調査によると、週あたりの総労働時間(持ち帰り仕事は除く)は、小学校教員が平均57時間25分、中学校教員が平均63時間18分であった。一週間の所定労働時間(38時間45分)を、小学校で18時間40分、中学校で24時間33分と、大幅に超えたかたちで長時間労働がおこなわれている。

 これまで計3回にわたって文科省が実施した全国調査(1966/2006/2016年度)をみても、週あたりの総労働時間は図のとおり、確実に増加してきている[注1]。

 ところが、教員はその所定労働時間を何十時間超えようとも、残業代は一切もらうことがない。しかもこれは、「本当は残業代が出るはずなのに、会社側が支払わない」といったブラック企業の話とは事情がまったく異なる。

 じつは公立校の教員は、法律の規定により、残業をしていないことになっているのだ。残業をしていないということは、残業代が生じることもない。つまり、先生たちは夜遅くまで、好きで学校に残っているということになる。

■ブラックな労働の背景に「給特法」

 公立学校の教員の勤務には、基本的に労働基準法が適用される。

 ところが、時間外勤務や休日勤務については、割増賃金(残業代)を支給しなければならないことを定めた労働基準法第37条の適用外とされている。その代わりとなるのが、長時間労働の根源とも言われる「給特法」(「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」)である。

 「給特法」は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の職務と勤務態様の特殊性に基づき、その給与その他の勤務条件について特例を定める」(第一条)ために、1971年5月に制定された。

 その「職務と勤務態様の特殊性」とは、つまり、教員は学校で授業時間だけ教室にいればよいというものではなく、学校の敷地外での仕事も含めて「何でも屋」と言われるほどにその仕事内容が多岐にわたる[注2]。だから勤務時間を厳密に数えることが難しいという着想である。

■残業(残業代)は「なし」とする

公立校教員の「教職調整額」と「給特法」(筆者が作図)
公立校教員の「教職調整額」と「給特法」(筆者が作図)

 さて、ここからが重要である。「給特法」は、給料月額の4%分を「教職調整額」として支給するよう定めている(第三条第一項)。他方でそれを支給する代わりに、「時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」(給特法第三条第二項)と規定している。

 給料月額の4%分をあらかじめ支給する代わりに、何時間にわたって労働しようとも「残業代ゼロ円」とすることが、約50年前にこうして決められたのである。

 なお「教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする」(第六条第一項)。そして政令には「原則として時間外勤務を命じない」という条件において、ただし臨時または緊急の場合の四項目[注3]に限ってのみ時間外に勤務を命じることができると定められている。

■教職調整額の4%=週に2時間弱の時間外労働

公立校教員における一週間あたりの残業時間数の推移(所定労働時間が調査年度によって異なるため、所定労働時間を一律に週40時間とした場合に、週の総労働時間数からその40時間を差し引いた時間数)(筆者が作図)
公立校教員における一週間あたりの残業時間数の推移(所定労働時間が調査年度によって異なるため、所定労働時間を一律に週40時間とした場合に、週の総労働時間数からその40時間を差し引いた時間数)(筆者が作図)

 教職調整額における給料月額の4%分というのは、1966年度に文部省が実施した「教員勤務状況調査」において一週間における時間外労働の合計が、小中学校で平均1時間48分であったことから算出されたものである[注4]。

 給特法の規定は、教員の時間外勤務が1966年当時のようにわずかであれば、ある程度合理的な仕組みであったかもしれない。ところが今日の教員は、実質的には週2時間弱をはるかに超えて、前述のとおり小学校で18時間40分、中学校で24時間33分も、時間外労働にたずさわっている。

 もはや教職調整額は、今日の時間外労働の対価としてまったく不十分であり、給特法の定めは、今日の実態からまったく乖離した状況になっている。

■残業時間・残業代が生じないから、長時間労働が生じる

 給特法の規定により、教員は時間外労働を把握する必要がない。いわば、給特法とは労務管理の基礎的手法を放棄するような法律である。それは次の2つの点で、長時間労働の温床となっている。

 第一に、国家規模の統計調査でこそ時間外労働の実態が明らかになってきたものの、いまも多くの学校では、各教員が日常的にどのくらい働いているのかが把握できていない(拙稿「教員の出退勤 9割把握されず」)。

 勤務時間数が把握できない環境下では、長時間労働の日常が見える化しない。すなわち「残業時間が生じないから、長時間労働が生じる」のである。

 第二に、残業代つまり割増賃金(1.25倍)を支払う必要がないために、雇用者側に業務の削減に努める動機が生まれない。残業時には、雇用者は通常賃金どころかそれよりも割り増しされた賃金を、被雇用者に支払わねばならない。これは財政面から、長時間労働の抑止力となる。

 ところが、公立校では教員が時間外労働をどれだけつづけても、対価が支払われることはない。国や自治体は教員の善意に甘えて、次々と仕事を押しつける。「残業代が生じないから、長時間労働が生じる」と言える。

■給特法の改正が議論されない

文科省ウェブサイト内にある特別部会のページ
文科省ウェブサイト内にある特別部会のページ

 このように考えると、教員の長時間労働を解消するためには、給特法の改正が必須であると言える。ところが、膨れあがった時間外労働分を残業代に置き換えれば、一兆円規模とも言われる、莫大な予算が必要となる。それゆえ、文科省は給特法の改正に後ろ向きである。

 文部科学省中央教育審議会は今年、「学校における働き方改革特別部会」を設置して、長時間労働の解消に向けてさまざまな事項を議論してきたが、これまでのところ、給特法への言及はごくわずかにとどまっている。

 先月28日に同特別部会(第8回)は「中間まとめ」の「案」を検討した。「案」には、給特法がもたらしている弊害についていくつか記載があったものの、給特法の改正を含め、給特法を具体的にどうすべきかに踏み込んだ内容は記述されていなかった。

■抜本的改革に踏み出せるか

中央教育審議会は給特法にどう向き合うのか(提供:写真AC)
中央教育審議会は給特法にどう向き合うのか(提供:写真AC)

 先月28日の議論では「案」を受けて、給特法に関しては二人の委員から発言があった。

 その一つは、「給特法があるから現状がある=給特法悪者論で、この部会が進んでいいとは思わない。 (略) 給特法があるから現出ではなく、できる前から教員は多忙だった。そういう認識を言いたい」というものであった。「(給特法が)できる前から教員は多忙だった」という主張は、1966→2006→2016年度と総労働時間が増大してきたとするエビデンスに反するようにも思えるが、いずれにしても、給特法の現状維持を説く発言と考えられる。

 もう一つの発言は、先述した給特法の成立根拠となる「(教員の)職務と勤務態様の特殊性」に関する内容で、「国立大附属の教師にも勤務の特殊性はあるのに、給特法の適用除外とされている」ことを突くものであった。

 現在、国立大学附属学校(と私立学校)には、そもそも給特法が適用されていない。他方で、国立と公立の教員の間に、職務や勤務態様にそう大きな差があるとは考えにくい。だとするならば、もはや給特法の成立根拠自体が危ういという主張であり、給特法の改正を説く発言と考えられる[注5]。

 これら二つの相対する主張が、「案」のとれた「中間まとめ」にどのように記載されるのか、注目したい。

 労働時間を記録するという労務管理の基礎の基礎さえ整備されないままに、公立校では時間外労働が青天井で増大してきた。この流れに抗するには、労務管理を実現し、長時間労働に歯止めをかける法制度設計が必須であると私は考える。これこそがまさに、国の仕事である。

注1:基本的には10月~11月にかけての労働時間である。1966年度:毎月のうち、10月と11月のデータを参照し、10・11月の平均値を算出。2006年度:計6期間のうち、第5期(10月23日~ 11月19日)のデータを引用。2016年度:調査の実施期間自体が、10月17日~10月23日または10月24日~10月30日、ならびに11月7日~11月13日または11月14日~11月20日。

注2:文科省の資料によると「教育の仕事に従事する教員の職務はきわめて複雑、困難、かつ、高度な問題を取り扱うもの」であり、「通常の教科授業のように学校内で行われるもののほか、野外観察等や修学旅行、遠足等の学校行事のように学校外で行われるものもある。また、家庭訪問のように教員個人の独特の勤務があり、さらに自己の研修においても必要に応じて学校外で行われるものがある」という(中央教育審議会初等中等教育分科会「教職調整額創設に当たっての考え方等について」第7回配付資料1より)。

注3:「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」。もともとは1971年7月の時点で、文部省訓令28号「教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合に関する規程」として定められたもの。

 同政令は、例外的な時間外勤務に関して、「教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること」として、「校外実習その他生徒の実習に関する業務」「修学旅行その他学校の行事に関する業務」「職員会議に関する業務」「非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務」の4つを定めている。これら4つの業務は、「超勤四項目」あるいは「限定四項目」とよばれる。

 つまり、政令において原則として時間外勤務は認められていないものの、臨時または緊急の場合であり、かつ4つの限定的な業務においてのみ、管理職から命じられうるということである。

注4:一週間平均の時間外労働時間が年間44週(年間52週から、夏休み4週、年末年始2週、学年末始2週の計8週を除外)にわたっておこなわれた場合における、時間外労働の手当に要する金額が、給料月額の4%に相当するという算出根拠である(中央教育審議会初等中等教育分科会「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」第10・11回配付資料4-2より)。

注5:両者の発言内容は、ウェブサイト「教働コラムズ」掲載の「中教審 傍聴の記録(第8回)」より引用した。

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授

学校リスク(スポーツ事故、組体操事故、転落事故、「体罰」、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。日本教社会学会理事、日本子ども安全学会理事。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社、近刊)、『教育という病』(光文社新書)、『柔道事故』(河出書房新社)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

パナソニック、電通、HIS、ヤマト運輸…… 厚労省が実名公表しても減らない“ブラック企業”〈dot.〉   有るから

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パナソニック、電通、HIS、ヤマト運輸…… 厚労省が実名公表しても減らない“ブラック企業”〈dot.〉 (AERA dot.) - Yahoo!ニュース

 

パナソニック電通、HIS、ヤマト運輸…… 厚労省が実名公表しても減らない“ブラック企業”〈dot.〉

12/11(月) 7:00配信

AERA dot.

 長時間労働や賃金不払いなど労働関係法令に違反した疑いのある企業名を、今年5月から厚生労働省がホームページで公表しはじめてから約半年。政府が「問題あり」と認定したブラック企業のリストは毎月更新され、その数は最新版(11月15日発表)では496社にのぼっている。

【表】あの有名企業も! 厚労省発表の“ブラック企業”一覧

 リストは各都道府県の労働局別に公表されている。企業名の公表期間は原則1年で、改善が認められ、公表を続ける必要性がなくなったと判断されると1年以内でも削除される。

 ブラック企業名の公表は、労働環境が悪い企業を“見せしめ”にすることで改善を促す目的がある。だが、現時点で抑止効果が現れているとはいえないようだ。

 グラフでわかるように、企業名公表の基準となる書類送検日を月ごとに見ると減少傾向は見られない。むしろ9月が46件、10月が61社、11月が76社と増加傾向にある。

 ブラック企業の問題が改善されないのは、少子高齢化や景気回復による人手不足、利益確保への圧力などの要因から、労基法を軽視する企業が後を絶たないためだ。リストには中小企業が目立つが、パナソニック電通ヤマト運輸エイチ・アイ・エスなどの有名企業も多数含まれている(表参照)。

 もちろん、厚労省の発表に含まれていない企業であれば、安心というわけではない。若者の労働環境の改善に取り組むNPO法人POSSE」の坂倉昇平さんは、こう話す。

「公表された企業は、遺族や当事者の訴えによって、過労死・過労うつや死亡事故を含む重大な労災事故が認定された企業が多い。実際には、違法な長時間労働が恒常化している企業でも、労働基準監督署から指導を受けた段階で是正報告書を提出すれば、書類送検されることはほとんどありません」

 ある大手住宅メーカーでは、労働基準監督署から複数の是正勧告を受けたあと、イメージ回復のために労働環境の改善への取り組みをさかんにテレビやホームページなどでアピールをしていた。だが、社員の数が増えたり、業務量が減ったりしたわけではない。会社からは夜になると強制的に退社させられるが、結果的に社内のイントラネット環境に接続できる駐車場の車の中で仕事をしたり、夜間でも営業しているモデルルームなどで仕事が続けられていたという。こういった「隠れ残業」や「持ち帰り残業」は労働基準監督署では発見しづらい。ブラック企業の手口はさらに巧妙化しているといえる。

 また、若手社員の役割にも変化があるという。

 2017年10月に有罪判決が出た大手広告代理店電通の違法残業事件では、常態化した長時間労働により新入社員の女性が自殺した。坂倉さんは言う。

「過去の過労死では、たくさんの仕事を一人で抱え込んだ40代以上の中堅やベテラン社員が死に至ることが多かった。それが近年は、業務のマニュアル化が進み、誰にでもできる仕事が増え、新入社員にも膨大な業務量が任せられるようになった。それに耐えきれずに体を壊したり、うつ病になったりするケースが目立っています」

 ブラック企業では、労働組合が労働環境の改善を求める組織として機能していない企業も多い。もし、悪質な労働環境に悩んでいる人がいれば、「ブラック企業ユニオン」など外部の労働組合に相談することも手段の一つだ。また、就職の前に公開されている情報を精査することで、ブラック企業の罠にはまらないことも大切だ。(AERA dot.編集部・西岡千史)

【読書感想】息子が人を殺しました 加害者家族の真実 ・・・・これも被害者

blogos.com

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【読書感想】息子が人を殺しました 加害者家族の真実

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息子が人を殺しました 加害者家族の真実 (幻冬舎新書)息子が人を殺しました 加害者家族の真実 (幻冬舎新書)

 

Kindle版もあります。

息子が人を殺しました 加害者家族の真実 (幻冬舎新書)息子が人を殺しました 加害者家族の真実 (幻冬舎新書)

 

内容(「BOOK」データベースより)
連日のように耳にする殺人事件。当然ながら犯人には家族がいる。本人は逮捕されれば塀の中だが、犯罪者の家族はそうではない。ネットで名前や住所がさらされ、マンションや会社から追い出されるなど、人生は180度変わる。また犯罪者は「どこにでもいそうな、いい人(子)」であることも少なくない。厳しくしつけた子どもが人を殺したり、おしどり夫婦の夫が性犯罪を犯すことも。突然地獄に突き落とされた家族は、その後どのような人生を送るのか?日本で初めて加害者家族支援のNPO法人を立ち上げた著者が、その実態を赤裸々に語る。

※引用中に出てくる人名は仮名です。

 テレビやネットで報じられる事件をみている人は、ほとんどの場合、被害者側に感情移入しているのではないかと思います。
 もちろん、僕もそうです。
 「介護疲れによる殺人」のニュースをみると、加害者側に同情することもあるとしても。

 ただ、現実問題として考えると、自分や家族が被害者になる可能性がある一方で、加害者になることだって、ありえない話ではないのです。
 もちろん、そんなことは想像したくもないけれど。

 この本は、「加害者家族支援」のためのNPOを立ち上げた方が書いたものなのですが、紹介されている事例をみると、加害者は、必ずしも「いかにもそういうことをやりそうな人」とは限らないのです。
 あらためて考えてみると、家族が自分がいないところで何をしているかなんて、大部分の人は「知らない」あるいは「わからない」はずです。
 でも、そこは「信頼」しているという(あるいは「関与しない」という)前提がないと、日常生活は送れません。  

 浅野恵(30代)は、その日、いつもと同じ朝を迎え、子どもたちを幼稚園に連れていく支度に追われていた。夫は最近疲れているのか、今朝もなかなか起きてこない。
 テレビには、行方不明となっていた人が遺体で発見されたという報道が流れていた。その場所は、自宅と同じ地域だったことから、昨夜から近辺は捜査員や報道陣らしき人たちの出入りで騒々しかった。どうやら殺人事件のようで、犯人はまだ逮捕されていない。早く犯人を捕まえてもらわなければ、子どもたちを外で遊ばせるわけにもいかない……

 そのとき、突然、チャイムが鳴った。午前7時半、こんな朝早くから誰だろうか。恵は、もしかして事件についてのインタビューではないかと思い、鏡の前でさっと髪型を整えた後、玄関に向かった。
 扉を開けると、ふたりの男性が門の前に立っていた。ひとりが警察手帳を出し、夫に事情を聞きたいので、署まで同行願いたいという。

 恵は慌てて夫のもとに向かい、警察が来ていることを伝えた。夫の表情は一瞬凍りついたように見えたが、すぐにいつもの様子に戻り、会社でトラブルがあったと説明した。
 大したことではないので、いつも通りに夕飯までには戻ると言い、警察官の車に乗り込んだ。

 殺人事件とは関係ないのだろうか……。ふと、不安がよぎったが、まさかそんなことがあるはずがない。恵はすぐに不安を打ち消した。
 しかしその日、子どもたちに「行ってきます」の一言も言わずに家を出ていった夫は、それから二度と戻って 数日後、夫は近所で起きた殺人事件の被疑者として逮捕された。

 加害者の家族は、こんなふうに、いきなり家に警察がやってきて、そこで事件への関与を知る、あるいは、報道ではじめて知る、というケースも少なくないそうです。
 ごく一部の「家族ぐるみの犯罪」とかでなければ、家族もその事実を知らない。
 そして、事件が明るみに出ると、加害者本人は留置され、取り調べを受け、罪が確定すれば刑務所に収監される。
 結果的に、世間に対して、矢面に立たされるのは、加害者の家族なのです。  

 相原真由美(30代)は、数カ月前に生まれたばかりの娘と5歳の息子と暮らす専業主婦で、夫は自営業者だった。
 ある日、夫が近所の家電量販店から電子機器1台を盗み、窃盗罪で逮捕されたという連絡を受けた。あまりに突然の出来事で信じることができず、警察署に電話をし、連絡をくれた担当警察官の名前を確認した。すると、夫は警察署に拘留されており、逮捕は間違いないことがわかった。

 電話を切るやいなや、報道陣が殺到するのではないかと不安が襲ってきた。窓のカーテンを閉め、隙間から外の様子をうかがっていると、テレビ局の車と思われるワゴン車が1台停まり、中から大きなカメラを担いだ男性とスーツを着た男性がアパートに近づいてくるのが見えた。

 真由美は急いでテレビを消し、子どもたちをお風呂場に連れていった。玄関のチャイムが鳴ったが、息を殺すようにして、留守を装った。すると、不在だと思ったのか、取材陣の足音は一瞬遠のいた。外を確認すると、テレビ局のものらしきワゴン車はまだ停まっている。

 おそるおそる玄関に近づくと、遠くからチャイムを鳴らしている音が聞こえた。どうやら、取材陣は近所に取材を始めたようだった。
 微かに夫の名前が聞こえた。真由美は、アパートの住人まで巻き込む事態となっていることを知り、関係のない人への取材をやめてもらうべく、外に出ていこうと思った。

 しかし、恐怖で足が震え、外へ出ることはできなかった。躊躇している間に、いつの間にか外の報道陣らしき車や人影は消えていた。
 その日の夕方、真由美のアパート近くに住んでいる大家さんが事情を聞きに訪ねてきた。真由美は、夫の事件によって迷惑をかけてしまったことを深く詫びたが、大家さんは、一刻も早く立ち退いてほしいと言って聞かなかった。

 昼間に現れた報道陣は、真由美が留守を装っていたことから、アパートの101号室から順番にチャイムを押していき、部屋を特定しようとしていたようだった。大家さんのところには、突然の取材に驚く住人からの苦情が殺到し、対応に追われたという。

 

 被害者へのマスコミの取材攻勢のひどさは、かなり問題視されてきているのですが、加害者家族への取材に関しても、こういうことが行われているのです。
 お前たちの家族が悪いことをしたのだから、しょうがないだろ、と言うのが妥当なのか?
 相原さん親子は、行くアテもないままアパートを退去させられてしまったのです。
 「家電量販店から、電子機器1台」って、そのくらいの罪で、ここまで大きな話になるのか……報道で名前が出るかどうかで、かなり大きな違いもあるようです。

 僕も他人事としては「それくらいの罪」と言えても、自分の身近なところで起こった話であれば、泥棒と同じアパートに住むのは怖い、子どもが心配だ……と思うだろうし、大家さんだって、「トラブルの原因になる人には、退去してもらいたい」のは当たり前の話なんですよね。
 「罪を犯したのは家族ではない」のだけれど、それを「割り切る」のは、なかなか難しい。  

 翌日、外に出ると、ドアに「犯人の家ココです。」という紙が貼ってあった。郵便受けには、「ふざけんな泥棒」「出ていけ」「死ね」と書かれた紙が投げ込まれていた。真由美は恐ろしくなり、引っ越しを決意した。

 そんな男と結婚したのが間違いなのだ、と言いきれれば、気楽なのだけれど、人って、わからないから……
 被害者側、加害者側、どちらとも縁がない人生がいちばんよいのだけれど、そこに「絶対」はないのです。

 ただ、これを読んでいると、「それでも、被害者家族でさえ、救済されているとは言い難いのに、加害者家族を擁護されてもなあ……」とも思うんですよね。
 両側とも家族はサポートされるべきで、被害者家族へのサポートが行き届いていないことが加害者の家族まで責めることの理由になってはいけないのは、理屈ではわかるのだけれど。

 ふたりの命を奪った、ある殺人犯の両親は、報道陣を心待ちにしている息子の言動に困惑していた。事件が起訴された後、加害者は取り調べもなくなり、拘置所の中で自由な時間を過ごすことになる。何もすることがなく、精神的苦痛を訴える人もいる。このようなとき、新聞記者や著名なジャーナリストに取材を求められ、話を聞いてもらうことに喜びを感じる人もいるのだ。

 その殺人犯の両親は、息子が反省しているとはとても思えない内容の記事が出るたびに、抗議や嫌がらせが増し、苦しみ続けていた。
 このように重大事件を起こす犯人の中には、社会的承認欲求に飢えている人もおり、報道陣から関心を向けられることで、その欲求が満たされる場合もあるのだ。

 秋葉原無差別殺傷事件から6年後、加藤氏の弟が自殺した。その事実はある週刊誌が小さく報じただけだった。
 メディアでは、厳罰化を叫ぶ人と、加害者の人権を唱える人が対立するが、その挟間で加害者家族の苦しみに耳を傾ける人はいないのである。

 加害者の家族に「責任」はあるのか?
 「全くない」と言い切る自信も僕にはありません。
 それを直接相手にぶつけるかどうかは別として。
 刑務所の中にいる加害者本人には嫌がらせは届かないのに、社会の中で生活している家族は、抗議や嫌がらせから逃れることはできないのです。
 
 ただ、こう書きながらも、「それでも、被害者やその家族のことを考えると……」という気持ちになってしまうのだよなあ。  

fujipon.hatenadiary.com
fujipon.hatenadiary.com

加害者家族 (幻冬舎新書 す 4-2)加害者家族 (幻冬舎新書 す 4-2)

 

「少年A」被害者遺族の慟哭(小学館新書)「少年A」被害者遺族の慟哭(小学館新書)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警察が「厳重処分」の意見を付けて送致した日馬富士事件 起訴するのが相当だと考えている場合

以下記事転載

警察が「厳重処分」の意見を付けて送致した日馬富士事件 検察の視点から見る今後の展開(前田恒彦) - 個人 - Yahoo!ニュース

警察が「厳重処分」の意見を付けて送致した日馬富士事件 検察の視点から見る今後の展開

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 元横綱日馬富士の幕内・貴ノ岩に対する傷害事件は、鳥取県警が「厳重処分」の意見を付けて鳥取地検に送致したことで、新たな局面を迎えた。検察の視点から、今後の展開などを示したい。

【4つの意見】

 警察が犯罪の捜査を行うに当たって守るべき心構えや捜査の方法、手続などについては、国家公安委員会規則である「犯罪捜査規範」に詳しく定められている。

 捜査を遂げた事件の処理に関しても、次のような規定がある。

「事件を送致又は送付するに当たっては、犯罪の事実及び情状等に関する意見を付した送致書又は送付書を作成し、関係書類及び証拠物を添付するものとする」(195条)

 「送致」は警察が被害者から被害届を受けたり、変死体を発見したり、様々な情報に基づいて捜査を行った場合であり、「送付」は警察が告訴や告発を受けたり、犯人による自首があった場合だ。

 マスコミ報道では両者をひっくるめて「送検」と呼ばれ、特に逮捕されていない事件の場合は「書類送検」と呼ばれているが、法令にはそうした用語は存在しない。

 要するに、こうした送致や送付に際し、「この被疑者に対しては、このような刑事処分を行うべきだ」といった意見表明が求められているというわけだ。

 というのも、確かに最終的に事件を起訴するか否かを決めるのは検察であり、警察にはそうした権限がないものの、検察よりも先に捜査を行い、事件発覚の経緯や事件に至る流れ、犯行状況、様々な背景事情などをよく把握しているからだ。

 日馬富士事件の場合、貴ノ岩の師匠である貴乃花親方の判断により、事件直後の10月下旬に鳥取県警に被害届を提出し、刑事事件化したということなので、今回は「送致」に当たる。

 こうした警察の意見には、次の4つのパターンがある。

(1) 「厳重処分願いたい

 起訴するのが相当だと考えている場合

(2) 「相当処分願いたい

 起訴・不起訴については検察に一任したいと考えている場合

(3) 「寛大処分願いたい

 起訴を猶予するのが相当だと考えている場合

(4) 「しかるべく処分願いたい

 時効が成立しているとか、被疑者が死亡しているとか、告訴がなければ起訴できない事件で既に告訴が取り下げられているといった事情により、不起訴以外にはあり得ない場合

【意見の重み】

 参考までに、送致書や送付書のフォーマットは、次のようなものだ。

画像
画像

 このフォーマットの1枚目が表紙であり、2枚目が裏面だが、裏面にある「4 犯罪事実及び犯罪の情状等に関する意見」の欄に、警察が意見を記載するというわけだ。

 ただ、検察は、いかなる事件であっても、被疑者の処分を決める際、この意見に拘束されることはない。

 むしろ、特に意識していないというのが実情だ。

 というのも、そもそも証拠により犯罪の容疑が認められ、送致や送付された被疑者が犯人である事件であれば、(4)に当たらない限り、そのほぼ全てが(1)の「厳重処分」となっており、(2)や(3)などないに等しいからだ。

 予算や人員が限られている中、これを割き、時間をかけて捜査を遂げた以上、検察による最終的な判断がどうなるにせよ、治安維持の担い手を自負する警察としては、(1)の意見を述べておきたい、というわけだ。

 送致書の裏面を見て、ごくまれに(2)や(3)の記載があると、何か珍しい生き物にでも遭遇したかのような気になる。

 例えば(2)だと、起訴か不起訴かが極めて微妙なライン上にあり、どのような事情を重く評価するかで、どちらにも転ぶような事件とか、証拠が薄く、犯罪の容疑が認められないかもしれないとか、アリバイが成り立つかもしれず、真犯人とは認められない可能性がある、といった場合だ。

 また、(3)だと、既に示談が成立し、被害届も取り下げられ、被害者が被疑者を許し、その処罰を全く希望していない、といった場合だ。

 いずれにせよ、検察は、警察の処分意見が(1)であっても、遠慮なく不起訴にしているし、逆に(2)であっても、例えば送致後に被疑者が被害弁償の約束を守らず、被害者の処罰感情が悪化しているなどといった事情があれば、起訴している。

 現に統計を見ても、警察から送致や送付を受けた事件のうち、検察が起訴する率は約3割にすぎず、約7割は不起訴にしているし、成人による傷害事件に限っても、やはり起訴は約4割にとどまる。

 不起訴の内訳も、「起訴猶予」、すなわち証拠によって犯罪の容疑が認められるものの、被疑者の性格や年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の事情などを踏まえ、起訴を必要としないと判断された事案が、不起訴全体の約7割を占めている。

 日馬富士事件でも、警察が(1)の意見を付けて送致したのはごく当たり前の日常的な光景にすぎず、検察にとって特に驚くような話ではない。

【検察による捜査】

 上司の指示で事件の担当を任された検察官は、まず、警察が作成した事件記録に綴られている証拠を読み込む。

 例えば、診断書や、貴ノ岩の負傷部位を撮影した写真、現場の状況や凶器のカラオケリモコンを撮影した写真、被害者である貴ノ岩、目撃者である横綱白鵬横綱鶴竜、関脇・照ノ富士ら同席者、被疑者である日馬富士の供述調書のほか、彼らによる犯行再現状況を撮影した写真などだ。

 その上で、まず容疑が認められるか否か、次いで起訴を要する事案か否かといった点を慎重に検討する。

 その際、証拠が足らない部分があるとか、ある点についてもう少し詳しく知りたいといった場合には、警察に指揮して補充捜査を行わせるし、検察自らも捜査を行う。

 日馬富士事件の場合も、少なくとも日馬富士貴ノ岩の取調べは改めて検察官が自ら行い、警察とは別に供述調書を作成するはずだし、現場であるカラオケラウンジの関係者など、第三者的立場にあると思われる目撃者の取調べも自ら行うかもしれない。

 また、この事件では、診断書が2通あり、その内容に微妙な違いがあるといった問題が当初から取り沙汰されていた。

 その点については、既に警察が捜査を尽くしているであろうが、最新の情報を得るために、検察が自ら各病院の医師に対して負傷部位や診断状況、回復の程度などを問い合わせ、文書で回答を得るといったことも考えられる。

 なお、マスコミ報道では、後援会や友人、知人など様々な関係者が好き放題の話をしていたが、事件を目撃していたわけではなく、又聞きの又聞きで不正確であったり、推測や願望なども含まれていることから、検察ではそれらを度外視して捜査を進めることになる。

【「求刑基準」の存在】

 こうして担当検察官が必要な捜査を遂げると、被疑者に対する具体的な処分、すなわち起訴するか否か、起訴するとして簡易裁判所に略式起訴して罰金を取って済ませるか、地方裁判所に正式起訴して公開の法廷で裁判を受けさせるか、といったことを決める。

 ただ、検察には、検察が独自に作成している「求刑基準」と呼ばれるファイルがある。

 実際に頻発している代表的な犯罪について、その態様や結果、同種前科の有無など様々な情状要素を評点化し、事案ごとにその評点を加減することで、起訴するか否かや求刑の上限下限が自動的に導き出されるというものだ。

 覚せい剤、麻薬、シンナー、大麻といった薬物事犯や、飲酒運転、スピード違反、人身事故などの交通事犯のほか、今回のような傷害や暴行といった暴力事犯がその典型だ。

 例えば交通事故の事案だと、過失の種類(居眠りや信号無視、脇見、前方不注視、速度超過など)、その内容(速度超過であれば超過部分の大きさ)、事故の現場や相手方(横断歩道上の歩行者か否かなど)、被害者の負傷程度、同種前科の有無などの事情に応じてプラス3点とか2点とか1点といった加点が定められ、逆に示談の成立や被害感情の緩和などの事情に応じてマイナス3点とか2点とか1点といった減点が定められている。

 これらの評点を捜査中の事案に当てはめ、プラス・マイナスの計算をすれば、経験の乏しい新任検事でも、「総合評点が3点だから求刑の上下限は罰金20~30万円、簡裁に略式起訴」といった一定の基準を簡単に導き出すことができるというわけだ。

 同様に覚せい剤を自分で注射して使用したといった単純な事案で同種前科がなければ、この求刑基準により、自動的に「懲役1年6月、地裁に正式起訴」といった結論が導き出される。

 全国で頻繁に発生する犯罪について、各検察官の個性や感覚、経験年数、地域性などで処分結果や求刑に大きなバラつきが出ることで、不公平や不平等が生じるのを極力抑えようとしているわけだ。

 日馬富士事件も、横綱が相撲以外の場面で他の部屋に所属する幕内力士を殴打したという事案であり、しかも被害者側である貴乃花親方と日本相撲協会との確執などもあって、連日のようにマスコミで大きく取り上げられた。

 しかし、そうした派手な装飾を排し、事件そのものを突き詰めて考えれば、結局のところ酒の席で先輩が後輩を殴って負傷させたという事案にすぎず、実によくある傷害事件の一つにほかならない。

 傷害罪に対する刑罰は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされている。

 先ほど述べたとおり、成人による傷害事件の起訴率は約4割だ。

 また、傷害事件の起訴全体のうち、略式起訴が約6割、正式起訴が約4割となっている。

 そこで、日馬富士事件も、検察内部の「求刑基準」に基づき、他の同種事案に対する過去の処理例とのバランスを図りつつ、具体的な処分内容が決められることとなる。

【考慮される要素】

 その際、次のような点が考慮されるはずだ。

(a) 犯行の経緯に関する要素

・計画性の有無

・動機や理由、事件の背景

・犯行の目的

・被害者の落ち度

・酔った上での犯行か

(b) 犯行の状況に関する要素

・犯行の時間、場所

・殴打した部位、回数、時間、力の強さ

・凶器使用の有無

・使用した凶器の内容、形状

・周囲に止められなければどこまでエスカレートしていたか

・プロの格闘家による犯行であること

・被害者が一般人ではなく、同じくプロの格闘家であること

(c) 犯行の結果に関する要素

・被害者の負傷部位、負傷程度、加療期間

・後遺症の有無、程度

(d) 犯行後の状況に関する要素

・示談の有無、その内容、金額

・被害者の処罰感情

(e) 被疑者自身に関する要素

・前科の有無

・過去に同様のトラブルを起こしているか

・反省の有無、程度

・被疑者の置かれた立場の大きさ

・引退や一連の報道が十分な社会的制裁と言えるか

(f) 社会全体への影響に関する要素

・社会的な影響の大きさ

・社会で同様の傷害事件が発生しないようにするための手段

 このうち、日馬富士事件の場合、特に重要な要素を順に挙げると、(c)の負傷結果、(b)の凶器使用と殴打回数、(d)の示談、処罰感情だ。

 一時期、ビール瓶で殴ったのではないかといった報道があり、実際にはビール瓶を手にしたものの滑り落ちて使えなかったということのようだが、いずれにせよ固いカラオケリモコンで殴っていることは確かだ。

 もし手から滑り落ちなければビール瓶で殴っていたであろうから、最終的にはビール瓶で殴っていないという事実は、日馬富士にとってさほどプラスに働く話にはならないだろう。

 確かに、酒の席での1回限りの事件で、日常的な虐待の事案ではないし、前科はなく、日馬富士もそれなりに反省している模様である上、社会的制裁を受けているとも考えられる。

 それでも、負傷の程度が全治2週間を要する左前頭部裂傷などということだし、凶器を使った執拗な殴打事件であることからすれば、このまま示談がまとまらず、貴ノ岩貴乃花親方の処罰感情が厳しいままで推移すると、検察の「求刑基準」に照らし、30万円程度の罰金刑を求める略式起訴は免れないだろう。

 最近でも、日本大学東北高校相撲部の顧問が男子部員の尻をデッキブラシで突き、直腸粘膜を損傷させる全治1週間のケガを負わせたという事件で、9月に略式起訴され、罰金30万円の略式命令を受けている。

 とにかく、日馬富士やその弁護人が貴ノ岩側と一刻も早く示談交渉を進め、示談金を支払い、貴乃花親方ともども、日馬富士の処罰を一切望まないといった内容の示談を取りまとめることができるか否かが、大きなポイントとなるはずだ。

 これだけの事件を起こし、しかも被害者側が絶対に許さないと言い張っているにもかかわらず、検察が安易に不起訴にすれば、検察審査会に審査を申し立てられるような展開となり、収まりがつかなくなるし、社会に対して示しもつかない事態となるからだ。

【ただ、さほど時間はないはず】

 10月下旬の被害届提出後、12月11日の鳥取地検に対する送致に至るまで、鳥取県警の捜査はかなり素早かったと言える。

 マスコミに大きく報道されており、社会的な影響が大きい事案である上、来年1月14日には大相撲初場所が控えているという面もあるだろう。

 ただ、送致がこの時期になった理由は、必ずしもそれだけに限らない。

 検察が警察から事件を受理したということは、いずれ起訴するなり不起訴にするなり、何らかの形で処理しなければならないということを意味している。

 「身柄事件」、すなわち被疑者を逮捕勾留して身柄を拘束する事件の場合、勾留期限という締め切りがあるので、これに追われるように最優先で処理を行う必要がある。

 これに対し、「在宅事件」、すなわち被疑者の身柄を拘束していない事件の場合、勾留期限という締め切りがないので、ついつい後回しになりがちだ。

 そこで、検察では、年末である12月と年度末で定期異動前の3月に、中長期の未済となっている在宅事件の一掃を図ろうとしている。

 年内に処理しなければならない事件の数を増やさないために、12月上旬ころ以降は、在宅事件の新たな送致や送付をストップさせ、翌年回しにさせる、というのが検察と警察との取り決め事項となっているほどだ。

 その上で、検察は、年内はリアルタイムに発生する身柄事件の捜査や処理をしつつ、御用納めまでの間、溜まった在宅事件の一掃に専念するわけだ。

 そうなると、先ほど述べたように来年1月14日に大相撲初場所が控えており、それまでに刑事事件としての区切りを付ける必要があることや、さほど複雑な事件ではなく、処分に頭を悩ませるほどの事案でもないことを考慮すると、検察としても、いつまでもズルズルと引っ張るのではなく、年内を処分の目処と考えるのが通常だろう。

 ただ、鳥取地検が先ほど挙げたような捜査を行うよりも、日馬富士貴ノ岩ら事件関係者の住居地を管轄する検察庁、具体的には東京地検に事件そのものを移送し、そこで彼らの取調べなどを行った方がスムーズに進むし、もし罰金を取るのであれば、東京区検から東京簡裁あてに略式起訴する方がベターだ。

 こうした移送は、検察庁間でしばしば行われているものだ。

 例えば、東京在住の被疑者が鳥取旅行中に交通事故を起こしたが、逮捕には至らなかった場合、犯罪地である鳥取の警察が現場の実況見分や被害者の取調べなどを行い、捜査を遂げた上で、鳥取地検に対して送致を行う。

 しかし、被疑者の取調べや処分などは東京地検が行った方が被疑者にとっても都合がよいことから、鳥取地検東京地検に根回しをした上で、捜査書類などを東京地検に送り、その後の捜査や処分を委ねる、というわけだ。

 こうしたやり方は、日馬富士のみならず貴ノ岩らにとっても距離が近くなり、メリットが大だ。

 内部決裁や事件記録の郵送などを含め、移送の手続にも数日間を要することから、日馬富士にとって残された時間はわずかだ。(了)

 
前田恒彦元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信。唎酒師、日本酒品質鑑定士でもある。

相続税逃れ 対策強化 一般社団法人「隠れみの」悪用を判断  国税の後出しジャンケンで課税されてきた例が山ほどある

以下記事転載

 

mainichi.jp

相続税逃れ

対策強化 社団法人「隠れみの」悪用を判断

 
 
一般社団法人を使った相続税逃れのイメージ
 

 政府・与党は、相続税の課税逃れ対策を強化する。一般社団法人や小規模宅地をめぐる相続について、課税逃れと判断される場合は非課税や軽減対象から外す。2018年度の税制改正大綱に盛り込む方針だ。

 

政府・与党 非課税対象除外

 相続税は、遺産のうち課税されない基礎控除額が15年に引き下げられ、課税対象者が拡大。15年は前年の1.8倍の約10万人に増えた。対象者の増加に伴い、節税策も広がっている。

 その一つが、不動産などに相続税がかからない一般社団法人を受け皿にした節税策だ。資産を持つ親が、一般社団法人を設立して理事に就任。資産を移転して自分の子ら親族に理事を継がせれば、相続税を免れることができる。

 一般社団法人は、08年の制度見直しで設立要件や手続きが緩和され、設立のハードルが下がった。東京商工リサーチによると、16年に新設された一般社団法人数は約6000社で、5年間で約1.6倍に急増した。

 政府・与党は、一般社団法人を隠れみのにした課税逃れが広がっているとみており、理事を親族が継ぐなどしているケースのうち、課税逃れと判断される場合は非課税対象から外す方針だ。

 また、小規模な宅地を相続する際に課税評価額を8割減らす特例措置を使った節税にも対策を講じる。特例は、親から宅地を相続する子が親と同居していなくても、持ち家がない場合は適用される。しかし、子が持ち家を親族らに贈与した上で住み続け、形式上、持ち家がないことにして特例措置を受けるケースがある。そのため、相続人が相続時に住んでいる家がもともと自分の持ち家だったり、親族が所有する家だったりする場合は、特例の適用を認めない方針だ。【中島和哉】

www.nikkei.com

 

 

相続節税の抜け道防ぐ 社団法人や宅地特例の悪用封じる 

税・予算
 
経済
2017/11/29 23:00
日本経済新聞 電子版
 
 
 
 
 

 政府・与党は相続税の過度な節税防止に乗り出す。一般社団法人を設立して相続税の課税を逃れたり、住宅を贈与して宅地にかかる相続税を減らしたりする節税策が広がっており、2018年度税制改正で具体的な対策を講じる。相続税は15年から始まった増税で課税対象となる人が増えており、節税策を封じて課税の公平性を確保する。

 「一般社団法人の問題は放置できない」。自民党税制調査会の宮沢洋一会長は社団法人を使った節税を問題視する。

 社団法人は08年から営利目的でも設立できるようになったが、株式会社と違って相続税はかからない制度となっている。企業の株式に当たる持ち分が存在しないからだ。役員の人数や親族の割合に関する定めもなく、比較的容易に設立できる面がある。

 この仕組みを悪用して節税に使うケースが増えている。まず親が代表者となって法人を設立し、資産を移す。その後に子供を代表に就かせ、法人の支配権を継承すると、資産には相続税がかからない。この仕組みを使えば、子供ばかりか、孫やその先の代まで、延々と非課税で資産を相続できる。

 しかも、法人設立にかかる費用は登記の6万円しかない。国も設立要件について「公序良俗に反しない限り全ての事業が対象」(法務省)としている。16年は6075件が設立されており、この5年で1.5倍という急増ぶりだ。登記だけで簡単に設立できる点が節税策として活用される一因になっている。政府・与党は親族が代表者を継いだ場合、非課税の対象と見なさず、課税対象とする方向で検討を進める。

 政府・与党が問題視するもうひとつの節税策は、小規模宅地の特例を悪用するケースだ。

 相続税には亡くなった人の住まいを、同居していた配偶者や親族が手放さずに済むよう、負担を軽くする仕組みがある。さらに転勤や貸家住まいなどの事情を考慮し、過去3年間、持ち家がなければ減税してもらえる特例も設けている。土地の評価額を330平方メートルまでは8割減らして相続の負担を軽くする。

 悪用とも言える税逃れとはどのようなケースが該当するのか。

 40代男性を例に具体的に考えてみると、まずこの男性が所有するマイホームを20代の長女に贈与し、自分は持ち家を持たない人になる。いわゆる「家なき子」として3年以上過ごす。その段階で男性の80代の父親が亡くなると、父親の宅地を相続する場合に税負担が軽く済む。

 このような形で特例を使う人が増えているとみられ、特例適用による減収見込み額は16年度で1350億円と3年で実に2倍近く伸びた。

 政府・与党は相続時に住む家がもともとは自分で所有しているものだったり、3親等内の親族が所有する家に住んでいたりすれば、優遇の対象外とする方針だ。課税逃れに備えている動きと判断する。

 年間の相続税収は2兆円ほど。相続税基礎控除の見直しに伴い、税を納める人が増えている。年間死亡者数に占める課税件数をみると、15年に3.6ポイント上昇し8%にのぼった。このため、納税者の間で相続税の負担感が急激に増しており、政府・与党も相続税で公平に課税する姿勢を前面に打ち出す必要があるとみている。

 17年度税制改正でも節税防止策は論点のひとつに浮上し、高層マンションの上層階の固定資産税の負担を重くした。だが、新たな節税策は相次いでおり、国と納税者の間でいたちごっこになっている面もある。

日馬富士事件で露呈した相撲協会の「最悪マネジメント」加害者側の聴取を鵜呑みにした中間報告をしている

以下記事転載 http://diamond.jp/articles/-/152597

 

日馬富士事件で露呈した相撲協会の「最悪マネジメント」

日馬富士の貴ノ岩に対する暴行傷害事件での、日本相撲協会の対応が不可解だ。人事マネジメントの観点からは、トンデモな対応をしていると言わざるを得ない。(モチベーションファクター株式会社代表取締役 山口 博)

当事者一方の見解を鵜呑みにする人事マネジメントは信頼を損なう

貴ノ岩と貴乃花親方が日本相撲協会の頭上を通り越して警察に被害届を出したことは、決して責められるようなことではない。むしろ、日本相撲協会の対応こそが、公平性を欠いており、トンデモである。 写真:日刊スポーツ/アフロ

日馬富士による貴ノ岩への暴行傷害事件が連日メディアを賑わしている。貴ノ岩サイドは鳥取県警による捜査中であることを理由に、日本相撲協会の聴取に応じない。一方、日本相撲協会は、日馬富士やその場にいた力士などから聴取を行い、中間報告を行った。また、日馬富士は早々と引退届を提出し受理された。

報道内容を見る限り、私には日本相撲協会の対応が不可解でならない。人事の観点から見ると、トンデモな状況だと言わざるを得ないのだ。

最も理解に苦しむことが、日本相撲協会の危機管理委員会が、いわば加害者側の聴取を鵜呑みにした中間報告をしていることだ。もちろん、中間報告であり、最終報告は異なる内容になるかもしれないが。

しかし、だからといって良い対応とは言えない。マネジメントする側が、加害者・被害者双方の言い分を聞かずに、一方の言い分のみを聞いた段階で見解を表明するのは大問題だ。それを行った時点で、マネジメントは「組織メンバーに対して公正な取り扱いをしていません」「当組織のマネジメントは不公正です」と宣言しているようなものだ。

一般企業で懲戒処分をせざるを得ない時、人事責任者が一方の当事者のみの事情や聴取内容を鵜呑みにして発言したら、人事の信用は失墜し、その後、人事は機能しなくなることだろう。

加害者に加担してはならない相撲協会の対応は最悪である

加えて中間報告の内容は、「貴ノ岩の態度が悪かったので、指導するつもりで日馬富士が暴行した」「貴ノ岩がすぐに謝っていれば、こうはならなかった」という意味の、まるで被害者に非があるかのような内容だ。

これでは、組織体制のトップに君臨するメンバー(加害者である横綱の日馬富士)を擁護し、組織の下部にいるメンバー(被害者である貴ノ岩)をないがしろにしていると思われかねないし、双方に非があり、やむを得ざる事態だったという方向に無理やり誘導しているように思われてしまう。

貴ノ岩サイドが聴取に応じないのだから、日本相撲協会が聴取できている日馬富士サイドの聴取内容から判断するのは当然だ、あるいは、やむをえないという見解もあるが、私はそうは思わない。

片方からしか聴取ができていない以上、「得られている情報は限定的であり、現時点で判断不能。警察の捜査結果の発表を待って、双方の聴取結果を踏まえて協会としての見解を述べたい」という意味のこと以外、何を言えよう。

マネジメントする側の日本相撲協会が加害者・被害者双方を公正に取り扱わず、加害者側に加担したと思われる発言をすること自体が、人事の観点から大問題なのだ。

「相撲協会を飛ばして警察へ」はどう考えるべきか?

問題はほかにもある。

日本相撲協会・八角理事長の記者会見によれば、理事会で「理事はじめメンバー全員が協力して日馬富士暴行問題の解決にあたる。これに違反するものは懲戒処分の対象になる」という決議をして確認したという。

これではまるで、協会の聴取に応じない貴ノ岩と、所属する部屋の貴乃花親方に対する牽制ではないか。処分をちらつかせて協力させようとしているように受け取られても抗弁できず、公益通報者保護法に抵触しかねない発言だ。

公益通報者保護法は、事業者のコンプライアンス経営を強化するために、不適切事象や法令違反行為を通報した場合、通報した者が不利益な取り扱いを受けることから保護するための法律だ。

公益通報者保護法では、通報先を制約しないとしている。つまり、所属組織の長へ通報することに、通報者が抵抗を感じるのであれば、そのさらに上位組織に通報することができるし、第三者的な機関へ通報することもできる。

もし、部下が、課長や課の不適切事例を、課長を飛び越えて部長に通報したら、課長は自らが不適切と思われたことや、そもそもマネジメントできていなかったことを恥じねばならない。部下に対して報復するなどは言語道断だ。同様に社長や会社の不適切事例を、会社を超えて、一般企業であれば労働基準監督署や社外の労働組合に通報することもあり得る。この場合も、会社のマネジメントは、自らが通報先として不適切と思われたことを真摯に反省しなければならない。

この観点からは、今回の傷害事件に際して、日本相撲協会への報告ではなく、警察に被害届を提出して警察の捜査に委ねた判断は是認されるように思える。

指導のためであろうと何の目的であろうと、暴行傷害が是認されたり許容されたりしてはならない。モンゴル特有の国民性だという解釈もあるかもしれないが、日本の法律の下で生じている出来事だ。スポーツの世界、とりわけ相撲界は特殊だから、1発や2発殴っても…という見解も見聞きするが、今回の事件は、1発や2発の程度ではないし、土俵外での出来事。明らかに暴力である。

このように人事の観点からは、貴ノ岩サイドのアクションは是認されるように思える。それを日本相撲協会が寄ってたかって追いつめ、トンデモな言動に終始しているようであれば、それは日本相撲協会の人事マネジメントの問題なのだ。

編集 

“リアル後妻業”結婚相手や内縁関係にある高齢男性が相次いで死亡――青酸連続死裁判を読む  怖い

以下記事転載

 

“リアル後妻業”結婚相手や内縁関係にある高齢男性が相次いで死亡――青酸連続死裁判を読む

旬選ジャーナル 目利きが選ぶ一押しニュース

 

▼〈青酸連続死裁判 筧被告、無罪主張し結審「言うことはありません」〉10月12日、朝日新聞大阪版(筆者=安倍龍太郎

 新聞、テレビ、雑誌に関わらず、ニュースが報じられる際には、その事象の重要性によって、優先順位と扱われる大きさが変わってくる。

 とくに国政選挙についてのニュースは、報道各社にとって最重要項目のひとつであることは間違いない。たとえば10月10日の衆議院議員総選挙の公示なども、新聞、テレビともにトップニュースとして大きく取り上げられた。

 一方で、たまたまその日と重なってしまったばかりに、本来ならばもっと大きなスペースを割くはずが、小さくしか報じられなかったニュースも生まれる。そのひとつが、今回私が取り上げた京都、大阪、兵庫で起きた青酸化合物による連続不審死事件の、京都地裁で開かれた裁判員裁判を報じた朝日新聞の記事だ。

筧千佐子被告 ©共同通信社

 2007年12月から13年12月にかけて、結婚相手や内縁関係にある高齢男性4人に対する、3件の殺人と1件の強盗殺人未遂で起訴された筧千佐子被告(70)に対して、京都地検は10月10日に死刑を求刑した。同公判は翌11日の最終弁論で結審しており、判決は本誌発売前の11月7日に下されている。くしくも10月10日は新聞休刊日。さらに翌11日は公示日の翌日ということもあり、新聞での扱いは事件の重大性に比して小さくなった。それはテレビも同様である。

 この事件は13年12月に死亡した京都の筧勇夫さん(当時75)の体内から、青酸化合物が検出されたことが端緒だった。京都府警が妻の千佐子被告について捜査したところ、彼女がこれまでに年配の男性と結婚や交際を繰り返し、そのいずれもが死亡。さらに結婚相手からは遺産を、内縁関係の相手からは事前に作成した遺言公正証書により土地などの相続を行ったことに着目したことで、連続不審死事件へと広がりを見せた。とはいえ捜査過程は決して平坦なものではない。

 私は千佐子被告が逮捕される14年11月の8カ月前である3月に、京都府警が内偵中であるとの情報を入手して取材を始めた。すると1994年に大阪で最初の夫を病気で亡くして以降、彼女は筧さんを含めた3人の男性と結婚。ほかに7人の男性と内縁関係にあり、いずれも短期間で死亡していることがわかった。しかし筧さん以外の男性については病死との判断で、死亡場所も大阪、兵庫、奈良だったため、筧さんの京都を合わせると4府県に跨っている。これを捜査するためには4府県警の協力が必須だった。

小野一光氏(ノンフィクションライター)

 さらに、いったんは病死と判断された死因の事件性を捜査することは困難を極める。なにしろ解剖等が行われていないため、死因をカルテや死亡時の状況などから再検討するほかないのだ。

 結果として、千佐子被告が処分したプランターから青酸の付着した小袋が発見され、同種の袋が自宅で発見されたことを下敷きに、保管されていた血液から青酸化合物が検出された2件と、死亡時の状況が青酸中毒の症状と矛盾していない2件を合わせた計4件の事件について、彼女は逮捕、起訴されるに至った。

 当該記事では37回の全公判を傍聴した記者が、高齢男性が彼女にひかれた理由を分析。非情な犯行と明るい性格のギャップについて、短い文章のなかで例を挙げながら解き明かそうとしている。

 事件性の有無については司法の判断に委ねるほかないが、この事件の背後には孤独な高齢者の心の隙間を狙った犯行が今後も多発する可能性が見え隠れする。さらにいえば同裁判で弁護側は、千佐子被告の認知症の進行を理由に訴訟能力を争点にしている。つまり今後の日本の高齢化社会において、問題となる点に焦点が当たる裁判でもあったのだ。